「あなたが一人で出て行ったと聞いて、すごく心配しました。お願いですから、勝手にいなくならないで下さい」
「えっと、その……ごめん」

 ラビは、手元のコップの中の水に目を落とした。

 セドリックは騎士団の副団長として、氷狼の調査の件については、調査の段階からきちんと経過報告を知りたかったのかもしれない。ラビは、仕事を頼まれた獣師として、その点は反省した。

 報酬も発生するのだから、例えそこに嘘が含まれていたとしても、彼らが納得する形で報告はするべきだった。

 それにしても、その場合はどんな嘘を付けばいいのか。

 自分の能力や、村人たちから気味悪がられている独り言について、ラビは普段から沈黙という形で応えて来た。『普通の人間が納得するような報告』というものを作るのは難しそうだ。

 ラビが考え込んでいると、セドリックが一度席を立ち、クッキーの入った皿を持って戻って来た。彼は何も言わず、三枚のクッキーが乗った皿を彼女の方に置いた。

 彼の顔には笑顔はなかったが、どうやら怒ってはいても、クッキーは食べていいらしい。

 よく分からない幼馴染だなと思いながら、ラビはクッキーを口に運んだ。噛んだ途端、苺の風味が口に広がって驚いた。先程のミルク風味の甘いクッキーは知っていたが、果実入りのお菓子というのは初めてだ。

 この感動をノエルに伝えたくて、半分を彼にあげようかと考えて辺りを見回すが、どこにもノエルの姿は見付けられなかった。すぐに戻って来られる距離にはいないのだろう、と残念に思いながら、ノエルは残りの半分も食べた。

「――ラビ、ノエルという男についての話が、まだ終わっていませんよ」

 声を掛けられ、ラビは我に返った。