起床後は食堂には向かわず、ラビは、書庫の鍵を返すため真っ先にグリセンのいる執務室を訪ねた。

 グリセンは早々に粥食を済ませて、朝一番の胃薬を飲んでいるところだった。ラビが一人で町を回ってくると告げると、「えッ、今から一人でかい」と青い顔をした。

 ラオルテの治安は悪くないが、一人では心細いだろうと彼は言った。ラビが強気で「ちょっと見て回るだけだよ、氷狼の件で調べたい事もあるんだ」と言い通し、仕上げとばかりに睨み付けると、気弱な彼は引き攣った笑顔で許可した。

 念のため、昨日ユリシスからもらったメモ用紙をしっかりポケットに仕舞ったラビは、建物を出てすぐ、入口に佇むノエルの姿を見付けると「行こう」と声を掛けて足早に歩き続けた。

『なんだ、機嫌が悪いな?』
「朝っぱらから面倒な説教をされたんだよ。すぐに追い出してやったけどさ」
『ふうん、そうなのか。起こしてやれば良かったな』

 ラオルテの町は、大きな荷車が多く行き交う事もあり、通りは広く造られていた。並ぶ建物の間を横断する道は、五台の馬車が並んでも余裕があるほどに広い。