セドリックは、ゆっくりと拳を戻すと、一同を見回し、戦場で見せるような怒号を張り上げた。

「断りもなく女性の部屋に押し掛けるなどと、一体何を考えているのですか!」

 言われた言葉の意味がすぐに理解できず、男達は完全に硬直した。

 しかし、セドリックの怒り心頭な様子を見て、それが冗談ではないのだと遅れて理解に至った彼らの中で、ヴァンが思わず「マジかよ……」と呟いた。
 
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 絶句した部下を前に、ユリシスは、昨日ラビに感じていた違和感の正体に「なるほど」と顔を歪めた。男性にしては華奢なラビの身体や、素直な表情をすると少女寄りの可愛らしさが窺える事には、当初から疑問は覚えていたのだ。

 昨日、ラビの手に触れて、ほぼ確信はしていた。白い指先や柔らかい肌、袖から覗く手首は折れてしまいそうなほど細く、どう考えても少年のものとは思えなかった。しかし、セドリックからは女性とは聞いていなかったので、決めつけてしまう事が出来ないでいたのだ。

 ラビが旅に出たいという件について、ユリシスはセドリックから相談を受けており、先日、この機会にとテトに話を聞き出す事を頼んだ。

 簡単に髪に触れたテトを見た時は、理由も分からず腹が立った。顔にかかる金色の髪を後ろへと梳かれた際、露わになったラビの横顔は思っていた以上に小さく、警戒のない顔が、何故か瞼に焼き付いて離れないでいる。

 僅かに私情が入り乱れたユリシスは、今は困惑している場合ではないだろうと自分に言い聞かせて、どうにか冷静さを取り繕った。

「……お言葉ですが副団長、ラビは女性でいらっしゃる? 私が『彼』と口にした時も、訂正されませんでしたよね?」

 過去のやりとりを振り返り、ユリシスは慎重に言葉を選んでそう尋ねた。