その時、慌ただしい足音が部屋に近づいてきた。

 テト達が視線を向けると同時に、部屋に飛び込んで来たのはセドリックだった。彼は、室内にいる面々に目を止めると、やや血の気を引かせて怒鳴った。

「あなた達は一体何をしているんですか!」

 セドリックの後ろから遅れて到着したユリシスが、ベッドを見て、苛立ったように眉間の皺を深めた。

「……昨日の夜更かしで寝坊ですか、いい度胸です」
「そんな問題じゃないでしょう!」

 珍しく声を荒上げるセドリックを、一同が訝しげに思ったところで、セドリックが続けて次の言葉を言うよりも早く、室内の騒がしさに気付いたラビが寝返りを打ってシーツから顔を覗かせた。

 重いた目をしばし擦ったラビが、ベッドに一番近いテトへ視線を向けた。

 静まり返る部屋の中、ラビはむぅっと目を凝らす表情で、テトの顔を凝視した。すっかり寝ぼけていると分かる顔だが、テト達は「ようやく起きたか」と半ば安堵していた。

 これなら、少し強く促せば完全に覚醒するだろうと安易に考え、テトは膝を折った。同じ目の高さから声をかけようとしたのだが、唐突にラビが彼の頭に手を伸ばしてきて、犬のように頭を撫でられたテトは硬直した。

 それを見ていた一同も絶句した。

 どうやら、ラビの頭が眠ったままであるらしいと気付いたヴァンが、「こいつ、犬でも飼ってんのか?」と部屋の沈黙を無理やり破った。場に乾いた笑いが起こり掛けたが、ラビから発せられた次の言葉で空気が凍りついた。

「……お前が寝かせないから、こっちは睡眠不足なんだけど」

 小奇麗な顔が、テトを見据えたまま柔らかく微笑した。金色の瞳が穏やかに細められ、少女にしか見えない表情を一番近くから向けられた彼は、ピキリと固まった。