「副団長、昨日の夜ちょっと機嫌悪かったけど、こいつのせいか? 寝坊したらなんとかって、なんか深刻な顔で独り言やってたのを見たぜ」
「マジか。副団長怒らせるとか、マズイだろ」

 普段温厚な副団長のセドリックは、切れるとかなり怖い。そのうえ、ユリシスよりも説教が長いのだ。

 途端に顔色を変えたヴァンは、大股でラビの寝室に踏みこんだ。彼を筆頭に、ジンとサーバルも室内へ入り、まだ起きる気配のないラビのベッドを覗き込む。

 テトは後ろに立った三人に「起こすの手伝ってくれよ」と改めて目を向けたが、ふと、ヴァンが両手の関節を鳴らせて臨戦態勢を整えている事に気付いて「え」と思った。

「ちょ、何してんだよ、ヴァン!?」
「何って。言う事聞かない奴は、ぶん殴って起こした方が早いだろ? 殴って叩き起こすってのが、騎士団の鉄則だろうが。つか、副団長怒らせるとかマジで怖いから」
「そんな鉄則ねぇよ!」
「あ、背中を叩くのはどうかな。大抵の人はびっくりして起きるよ」

 優しいサーバルがそう提案したが、ヴァンは「いいや、甘やかす必要はないぜ」と悪い顔をした。ジンがハッと気付いた顔で、「……そうか、あの時の怨みを晴らすチャンスなのか」と考え込む。