「ダメって、ひどい……」
「だって狭くなるだろ」
「……ラビは昔から、集中すると僕を構ってくれなくなりますよね」

 セドリックは残念そうな表情をしたが、気遣うようにやんわりと微笑んだ。

「ちゃんと食べて下さいね。それから、僕は少し外に出ますから、ちゃんと自分で時間を確認して部屋に戻――」
「大丈夫だいじょーぶ」

 ラビは、自信たっぷりに言って、セドリックを書庫から追い出した。


 しかし、それからとっぷり夜が暮れ、消灯時間が過ぎて辺りが静まり返っても、ラビは書庫に居座っていた。

 鍵を返しに来ない事に不審を覚えたユリシスが、扉の向こうから「団長の胃に穴があいたらどうしてくれるのですか」と声を掛けてようやく、ラビは予定の時間が過ぎている事に気付いた。

 ラビがそろりと扉を開けると、そこにいたユリシスは、書庫の床に乱雑する地図や図鑑の散らかりようを見て、美麗な顔を引き攣らせた。

「……最後はちゃんと元通りに片付けてから、戸締りをして下さい。そして、明日の朝一番に必ず鍵を返しなさい。いいですね?」

 どうやら、ユリシスは室内の惨状を見て、すぐに鍵を掛けるのは無理だと悟ったらしい。ラビは返す言葉もなく、唇を尖らせつつも「ごめん」と口にしてユリシスを見送った。