パソコンの前に残されたハイソンは、珈琲を大量に喉に流し込むと、深呼吸してパソコン画面に向きあった。長さのある机の上には、複数のモニターとキーボードが設置され、珈琲カップの置場もなく様々な資料が乱雑している状況だった。

 簡潔にやるべき事をまとめると、これはゲームのようなものだ。

【仮想空間エリス】を稼働させているプログラムの本体に辿り着くまでに、六つのエリアを突破し、本プログラムを破壊出来ればゲーム・クリア。しかし、それは仮想空間内に潜入した三人が、途中で失敗し、戻って来てしまう事を想定しなければの話だ。

 既に【仮想空間エリス】への入口は残されていない。これは本物のゲームのように、再スタートはきかない任務なのだ。

 大佐直々の命令で、派遣チームはたったの三名組だった。目的地に辿り着くまでに置かれている六つのセキュリティー・エリアについて、上層部への報告の仕方がまずかったのだろうかと、ハイソンは後悔を覚える。

 基本的に、仮想空間は人工知能を搭載された『エリス・プログラム』で全て管理されている。空間内の活動については記録され、空間内の構造は見取り図としてモニターに反映する。

 しかし、セキュリティー・エリアは、全く独立した仮想空間として仕上がっているため、要となっているシステムの基がないこちらでは、踏み込むまでデータの収集と解析が出来ない現状があった。

 現在、モニター状にエラーと表示された歪な形だけの地図には、六つの別エリアが、バグとして付着している様子が映し出されていた。それ以上の詳細データはなく、実際にスウェン達が足を踏み込まなければこちらからアクセスが出来ない。

 六つの各エリアの仕組みは、仮想空間エリスと同じであるが、範囲はどうやらそれほどまで大きくはないらしい、とは分かっている。