肌が粟立つような威圧感は、本能的な恐怖をスウェン達に実感させた。話が通じる相手でない事は、焦点のあっていない狂気を孕んだ、エリスの煌々とした赤い瞳を見て分かっていた。

 スウェンは特に、戦場でそういった人間を何度も見て来たので、人の姿をした『エリス』が、一つの信念や妄執に囚われたまま、自分が狂っている事に気付けないでいるタイプの敵だとも把握した。

 人間の姿をしていながら、人ですらない恐怖。

 その点でいえば、ホテルマンがいつか見せた冷たい横顔や台詞を、スウェンに思い出させた。ああ、そうか、彼は人間ではないのだなと実感してしまったのは事実だが、大きな違いがあるとすれば、ホテルマンには理性かある事だ。だからスウェンは得体が知れずとも、ホテルマンを心の底からは恐れられない。

 あのエリスは、なんというか……次元が違う。人間が関わっていい相手ではない。

 物事の考え方や捉え方、全てが理解し合えない存在に出会った時、人は強い恐怖を実感する。『エリス』という名を持った少女は、実験で失敗し死んでいった壊れた人間と対峙した時の事を、スウェン達に彷彿とさせた。

 彼女を見た瞬間に思ったのは、資料で見た、本物のエリスの姿とは、似ても似つかないというのが印象的だった。野心の強そうな面持ちや、自分中心の我が儘さが滲み出る表情全てが、まるで実際のエリスとは他人ほど違って見える。

 スウェンは、エリスを注視したまま、場の状況を理解していないアリスに軽く峯打ちして意識を奪った。『エリス・プログラム』そのものであるあの少女の姿をしたモノが、エリスの実の娘を見た時に、どういった反応を見せるのか想像がつかない懸念もあった。その判断に対して、ログとセイジも、反論する様子は見せなかった。