机上空論から始まった兵器開発は、シリーズ5までモデルが試作されていたが、実用段階までには至っていないはずだった。一時期、日本の技術者を呼んだらどうか、という意見もあったが、現状、日本が武力を持たない事については、軍も地団太を踏んでいた覚えがある。

 丸みを帯びたボディと、滑らかな動きを可能にした力強い構造。どんなに不安定な道でも動ける車輪型の二本の脚に、銃口のついた大きな二本の腕。頭頂部には、防弾ガラスに守られた見通しの良い運転席が設置されている。

 シュミレーテョン画面の中ではなく、MR6が兵器として、仮想空間の中を闊歩している姿は、スウェンを驚かせるには充分だったが、――対地上用戦闘機MR6に搭乗している人物を確認した際には、さすがのスウェンも言葉を失った。

 対地上用戦闘機MR6を操作していたのは、地上で逃したマルク・シューガー本人だった。

 運転席に腰かけたマルクは、神経質そうな目尻を痙攣させて、防弾ガラス越しに辺りに目を走らせていた。外で最後に見た時以上に痩せ細り、顔の皺は増え、その髪にも白髪が多く混じっていた。忙しなく辺りを何度も窺う様子は、マルク自身が想定していなかった何かが、ここで既に起こっているという事を感じさせた。

 マルクは、地上に隠れているスウェンに気付かず、マイクの出力がオンになっているらしい操作室で、対地上用戦闘機MR6から放った鎖を巻き上げながら、苛立ったように呟いた。

「残像共が。……これはバグなのか。一体、この残像はどこから入りこんだのだ?」

 スウェンは、先程消滅した白衣の女性を、つい最近どこかで見た事があったような気がして、ふと首を捻った。

 息絶える直前の横顔をチラリと見たばかりでは、自分の記憶に結びつけられそうにもなく、眉間に皺を刻む。しかし、ここで何が起こっているのか、早急に確認する必要があるだろう事は、早々に理解した。