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 学生だった頃、ある物語の中で、私は知能を持ったロボットのキャラクター、『ナイトメア』が好きだった。

 私の研究の助手を勤めた人工知能『マザー』はから、偶然仕上がった劣化版の人工知能プログラムについては、中古のノートパソコンに移し入れて、どうにか育たないかプライベートで試行錯誤した。

 研究室の物に比べると、その人工知能の性能は遥かに劣るが、まるで、未熟な私と同じように一生懸命に動く姿が気に入って、私はそれに『ナイトメア』と名付けた。

 私の『ナイトメア』が入った灰色のノートパソコンは、よくフリーズを起こし、起動中に突然電源が落ちる事もあった。手が掛かるうえ、特にこれといって何かが出来る訳でもなかったが、私は、こいつがとても可愛かったのだ。

 人工知能を搭載されただけの機械だって、いつかは感情を持つかもしれない。
幼い頃に一度だけ読んだ本が忘れられず、私がそう言うたび、同僚達は「夢物語だ」と笑った。確かにそうかもしれないが、私にとって、夢は多ければ多いほど楽しくて仕方がなかった。

 それらは、殺人兵器を作り続け、命を弄んで殺してしまう日々の中で、私の心を癒してくれる喜びだったのだ。

 機械は、果たして夢を見るのだろうか。

 研究が中盤を迎えた多忙の折り、私はふと、そんな事を考えてしまった。停止されている間、彼らの中に時間経過はないはずだが、どうなのだろう。

 気になった私は、こっそり『ナイトメア』に訊いてみた。カメラは搭載してあるが、相変わらず、こちらの呼び掛けに反応する機能は発達していなかったから、質問を手動入力して応答する仕様だった。

 私の質問に対して、あの時『ナイトメア』は、こう答えた。


――夢、ワタシは、見ない。


 そうか、機械は夢を見ないのか。

 その時は大きな事と捉えなかった。私は、『ナイトメア』にも『マザー』のような知能が育ちつつあるぞと、彼女にこっそりと教えてやった。彼女は「あなたは面白い人ね」と微笑んだ。結婚式にまであのパソコンを連れてきちゃ駄目よ、と軽く注意されたのは、きっと焼きもちからだろう。