軍事において、洗脳や精神操作といった分野に関心がもたれていた歴史は多い。科学を駆使したデジタル機器や武器の発明、戦前から続けられている生物兵器の開発が主流になっても、精神研究は細く長く続けられていた。

 小さな部署を軍部に構えていた彼らは、精神研究の中で好奇心に惹かれたテーマに携わるような、生粋の学者肌に近い者の集まりだった。

 軍の中の研究所という事もあって、バーチャルが注目されるようになった頃、彼らは軍の研究員として、科学班に協力する事になった。実際のミッションを想定したシミュレーション・システムを立ち上げたのだが、その中で、仕上がりに納得しない科学者がいた。

 彼は、機械で視覚と聴覚を刺激し、馬鹿げたオモチャの箱に疑似的な振動を与えるだけのシミュレーション技術だと、スタート時から異論を唱えていた。

 肉体的にも経験が加算されるような、完璧なバーチャル空間を夢想した彼は、人間が見る『夢』を利用出来ないかと考えた。小さな部署を立ち上げ、進んだ科の力を駆使すれば可能ではないのかと、自身の研究にのめり込んだ。

 自由自在に『夢』を利用するような研究は、途中で頓挫し、彼の退職により止まった。

 それから長い時間が経過し、軍の内部も世代交代が終えた頃、ある全く異なる分野の若い主任に、彼が行っていた研究資料が行き渡った。

 軍にとって、彼は特殊な位置付けにある優秀な人材だった。一つの巨大なプロジェクが終了し、休養させるべく自由な時間を与えた。彼は気休め程度に興味のあるテーマを拾い上げ、それは偶然にも、昔にいた男が頓挫した研究だった。

 全く異なる分野でありながら、彼は、偶然にもその研究を成功させてしまう。