「私、もっと知りたいの。私は一体どこから生まれて、誰のために笑えばいいの? ねぇ、早く私を造り上げて『ココ』へ来てちょうだい。彼女と、私と、あなたの三人で、一緒に遊びましょうよ」

 彼の『夢』の世界で、彼女と同じ顔と姿をした女が、無邪気に「うふふふ」と笑んだ。

 いつもそこで悪寒を覚えて目が覚めた。考え過ぎているのだろうなとも思ったが、それが三回も続くと、さすがに気の迷いとして片付けられなくなった。

 彼が造り上げた『エリス・プログラム』は、主電源を落としている状態の活動静止状態で、僅かだが奇妙な信号を発している時間帯が確認された。コードもなしに、個人の人間の脳波に影響を及ぼしている? そんな馬鹿な――

 彼が悩んでいる間にも、研究は進んだ。

 人数も一気に増え、マルクを筆頭に、被験者による実験が開始されたのは、彼女に子供が出来た年だった。

 被験者の中で精神をしばらく病んでしまう者が現れ、一時中断されたが、機械上の問題がないと分かると、すぐに再開された。

 しかし、彼はそれを放っておけなかった。精神的に参ってしまった者達の元へ訪れて、話を聞くと、まるでホラー映画のネタのようにも思える内容が出た。

 とある隊員は、「女の子の笑い声がするんだ」と言っていた。被体験の直後から数日間、夜な夜な『顔のよく見えない女性』が遊びに来るのだという。


『彼女は手を引いて、むちゃくちゃな世界に俺を連れ込むんだ。世界はバラバラで、ぐにゃりと歪んでいて、俺もその女のも形が定まらない。そこは、そんなおぞましい世界なんだよ、博士……』

 
 彼が悩む様子を見ていたマルクが、ある日「後遺症を出してしまう欠陥があるというのなら、それを改善すればいい」と提案した。きっと脳への刺激が強過ぎるのかもしれない。その数値を抑えて精神安定剤も導入してやればいい。『エリス・プログラム』は、まだまだこれから大きく成長出来る兆しがあるのだ、とそう主張して来た。