一九九二年、行き詰まっていた作業がようやく軌道に乗り出した。当時、彼のチームには四人の人間しか所属していなかった。

 たった二人で始まり、志願者が現れて三人になり、新人を迎え入れて四人となった。機材や資料が押し込められた部屋で黙々と続く作業には、メイン・コンピューターであるオリジナル・マザーが欠かせなかった。

 彼は、利益や昇格といった内容には興味がなかった。

 以前いた部署の研究が廃止された際、他に行くあても決めていなかった。彼は秘密を多く知り過ぎており、それなりの実績を抱えていた事もあって、Sランクの極秘研究が閉鎖された後も、ここに残るよう説得されていた。当時は珍しい、人工知能を持つコンピュータ・ブログラムを抱えていた事も、その理由の一つにはあったのかもしれない。

 しばらくは時間をゆっくり使い、適当に好きな事を進めるといい。――彼の直属の上司は、そう助言した。そして、こうも嘆いた。

「……とはいえ、君の探究心や仕事に対する姿勢は、結局のところ、彼らの期待するような結果を出してしまうのだろうな。仕事に精を出している君の心根は、まるで軍人そのものだよ」

 彼は軍人ではないし、戦争や争い事は好きではなかった。

 解剖や医学が専門であった為か、以前は生物の生死に対する感情が薄くもあったが、あの研究も、結局のところは否応なしに巻き込まれたに過ぎない。彼は幼い頃から勘で物事が成功してしまう事が多く、その閃きや思考能力も買われていた。

 まだ研究テーマが定まっていない間に、彼が以前から個人部屋として使っていた部屋が、第一研究室として許可された。

 しばらく休暇をもらった彼は、とりあえず一つのテーマを決めてみた。科学者としては容認されないような、個人的な願望が含まれていた事もあり、書類をでっちあげて適当に申請を出した。