「安樂。お前って昔から、しょうもなく女好きだもんな」
「失敬な。ふっ、俺が今愛しているのはユミちゃんだけなんだぜ――」
「すみません塩焼き鳥一つお願いしま~す」
僕は、奴が決め顔で台詞を述べるのを遮って、ビールジョッキを軽く上げる。向こうで別客の注文を取り終わった店主が、愛想良く「あいよ」と声を上げた。
やや煙がこもっている店内には、小さな厨房から調理される食材の音や匂いが漂っていた。僕らの他には、先客でいた三人の男が座席に腰を降ろして、競馬とゴルフについて楽しげに話している。
奥の座席にいるのは、着崩したスーツを着た五十代ほどのふっくらとした男だ。彼の部下らしき四十代の男二人が、こちらに背を向けるようにして並んで座っている。そこでされている陽気な会話からは、親身な雰囲気が滲み出ていた。
泣き疲れたらしい安樂が、ビールジョッキに割り箸を突っ込んで意味もなくぐるぐると回した。僕は三人の客の明るい話題を背景にした彼を眺めながら、随分と温度差の激しい店内だなと思って、フッと力なく笑ってしまっていた。
「失敬な。ふっ、俺が今愛しているのはユミちゃんだけなんだぜ――」
「すみません塩焼き鳥一つお願いしま~す」
僕は、奴が決め顔で台詞を述べるのを遮って、ビールジョッキを軽く上げる。向こうで別客の注文を取り終わった店主が、愛想良く「あいよ」と声を上げた。
やや煙がこもっている店内には、小さな厨房から調理される食材の音や匂いが漂っていた。僕らの他には、先客でいた三人の男が座席に腰を降ろして、競馬とゴルフについて楽しげに話している。
奥の座席にいるのは、着崩したスーツを着た五十代ほどのふっくらとした男だ。彼の部下らしき四十代の男二人が、こちらに背を向けるようにして並んで座っている。そこでされている陽気な会話からは、親身な雰囲気が滲み出ていた。
泣き疲れたらしい安樂が、ビールジョッキに割り箸を突っ込んで意味もなくぐるぐると回した。僕は三人の客の明るい話題を背景にした彼を眺めながら、随分と温度差の激しい店内だなと思って、フッと力なく笑ってしまっていた。