彼は日頃から喜怒哀楽が多いものの、どうやら今回、安樂夫婦は記念すべき『七回目の大喧嘩』となったようだ。数時間前、会社を出た途端に安樂のビジネスマン風は崩れ去り、僕はビル前の往来ド真ん中で泣きつかれた。

 話を聞いてくれるまで帰さないと脅され、それを聞いた周りの通行人にピンクな誤解をされ、そこでこの居酒屋に引っ張ってきたわけである。

 プリン好きの馬鹿力め。たまには珈琲ゼリーくらい食えってんだ。

 毎日プリン話も聞かされている僕は、苛々してそう思いながら、ビールをぐびりと喉に流し込んだ。とにかく、めいいっぱい食べて飲めば、隣にいる友人をぶっとばさずに済みそうな気がする。

「ユミちゃんさ。俺が他の女に目を奪われたって言って、話を聞いてくれないんだ……」

 店主からの差し入れの焼き鳥をつまみながら、安樂はそう話す。
 僕は口の端についてビールの泡を拭いながら、シクシクと泣いているその鬱陶しい横顔を見やった。