会社一の感情が豊かな奴で、仕事以外では情けないくらい感情的な男だった。彼は仕事モードがプツリと切れると、たとえ好物のプリンを与えたとしても平気で男泣きをする。

 長身でいかにも出来る男といった面をした彼が、少年のように泣いても可愛らしさはない。結婚する前に付き合っていた女性や、彼が狙っていた女性たちが離れていったのも、彼のそういう一面を知ってしまったからである。そこには男として同情する。

「でもユミさんは、お前の事を好きだって言っていただろう」

 ポロ泣きの顔に呆れつつ、僕はそう言葉をかけてやった。

 ユミさんは二つ年下の非常に気の強い美人で、安樂の涙も好きだと言って結婚した女性である。前回の喧嘩は、ニカ月前に起こっていたのだが、確か仲直りした際に「あんたのこと、本当に好きなのよ」と言われたと安樂から聞いたのを覚えている。

 あの時、喧嘩後の和解について、鼻の下を伸ばした安樂から繰り返し聞かされた僕は、うんざりしつつ聞き手に徹して酒を飲んでいた。泣きつかれるよりは目立たないし、悪酔いする前に帰れるからいいだろう。つまり心境は、今より若干はマシだった。