僕らよりも十歳は年上そうなその店主は、すっかり安樂の顔を覚えていた。座敷に座っている他の三人の客に、追加注文された料理を出して戻って来ると苦笑いを浮かべた。目で「またかい」と訊かれた僕は、ビールを二つ注文しつつ肯き返す。

 僕と安樂は、カウンター席に腰かけていた。目の前には、五種類のつまみが無造作に置かれている。僕の方はセットで注文した『おつまみ』がそのまま残っていたのだが、安樂の方はビールも料理も、僕の三倍ほどの速さで進んでいる状況だった。
 いたたまれなくなった店主が、カウンター越しに料理を盛った小皿を差し出して、泣き言を続けている安樂を慰めた。

「やれやれ、元気出しなよ。ほら、焼き鳥、サービスだよ」
「うっうっうっ……おっちゃんは優しいなぁ」

 安樂は凛々しい面長の顔と、一見すると頑固そうな印象もあるキリリとした眉をしていて、彼の彫りの深い目を『頼れる』と感想する顧客は多くいた。仕事面でも有能で営業成績もトップクラスなのだが、残念ながら第一印象のクールさを裏切る感情豊かな男だ。