大学時代からそうだったが、安樂は自分の一喜一憂の全てに僕を巻き込んだ。嬉しいから飲む、楽しいから飲む、悲しいから……、と感情的な理由が付くたび安い居酒屋で酒を飲むのだ。僕はやれやれと思いつつも、結局はこうして付き合ってしまう。

 二人でいつも利用するのは、下町の小さな居酒屋という風をした『居酒屋あっちゃん』だ。定食はなく、つまみになるおかずとビールが置いてある。

 狭い店内には、L字に折れた十人用のカウンター席があり、通路も狭める四人一組の座敷が四組あった。古びた畳みと木材で出来た内装は、どこか懐かしくてほっとするものがあり、店は歩道橋の裏手に隠れていて来店するほとんどが常連だった。

 独り身の店主は、白髪まじりの角刈り頭をしていて、人柄の良さ滲んでいるような気安く話せる雰囲気を持った人だった。常連たちの大半は、安い男料理とビール目的というより、まばらにしか客のいない狭古い店内に、その店主を訪ねているみたいでもある。