白状してはダメですか。僕は……さよならなんて、したくなかった

 僕は、素直になれない男だった。真面目な顔をして正面から向き合い、気持ちをぶつける事も出来ない男だった。

 安樂の家でパスタ料理を作った翌週末、カレンダーに赤い丸をつけた日がやってきた。僕はこの日、そんな自分の自尊心だとか意地だとか、その全てを忘れる。意図的して忘れようとしていた以前の努力はなんだったのかと呆れるほど、この日を素直に過ごせるようになったのは、どうしてだろう、と今でも少し考える。

 毎年、この日はよく晴れた。

 雨が降ったのは、僕が安樂のように初めて泣いた、四年前の一度だけだ。

 今日も見事な晴れ空が広がっていた。陽が昇ったばかりの透明な青空を仰いで、僕はそっと目を細めた。雲も見当たらないその空は、地上との境も曖昧なまま膨らんでいるようにも見えるほど広く思えて、その色彩に吸い込まれて行きそうだった。

 開け放ったベランダから、肺の奥深くまで息を吸い込む。そうすると、潮風と秋に穂をつける緑の香りがした。シーツとマット、洗濯物をベランダに干すと気分はますます良くなり、珈琲の味もとてもまろやかに感じる。