恋する乙女の如く頬を赤らめ、だらしなく表情を緩めるその上司は五十ニ歳。彼が初孫の成長に喜々するのは全然構わないのだが、社員が個人で使用している携帯電話に、お孫さんの成長報告が書かれた写メールを一斉送信する事だけは、やめて欲しいと僕は思ってもいた。

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 三十五歳の僕の周りには、独身と既婚が半分ずつ溢れている。同じ大学を卒業して同じ会社に勤めているのは、安樂(あだら)という男だった。

 実を言うと僕とこいつは、だからもう随分長い付き合いになるのだ。彼は結婚五年目になるのだが、離婚状を突きつけられたうえ「しばらく実家に帰ります」と、奥さんにプチ家出をされたのは今回で七回目である。

「聞いてくれよ~、ユミちゃんが二日間も帰ってこなくてさぁ。戻ってきてもハグもキスも全力拒否で、喋ってもくれないんだよぉッ」

 ビールジョッキを片手に、そうだらしない口調で泣き事を口にしたのは、勿論、安樂である。