白状してはダメですか。僕は……さよならなんて、したくなかった

 安樂に紹介されてから随分経つが、ユミさんに対する僕の敬語は健在だった。どうやら僕は、妻以外の女性とは敬語で話しているらしい。砕けた話し方をするのは、少ない男友達相手だけだと安樂に指摘されて、打ち解けても敬語交じりだと笑われた。

「なぁ、来週の休みは釣りに行こうぜ」

 食事を始めて早々、フォークとスプーンを使いこなせない安樂が、箸でパスタをつまみながらそう提案してきた。

 僕は眉を顰めると、胡乱げに「来週?」と反芻する。

「最近ご無沙汰だったろ。だからさ、川釣りに行こう」
「あら、来週はコスモスが見頃じゃなかったかしら? なら、そっちの方が先よ」
「ずっと釣りしてないんだぜ? 来週も天気がいいらしいしさ。なあ、行くだろ?」

 安樂に意見を求められた僕は、肩を少し竦めて見せると、「その日は先約が入ってるんだ」と答えた。

「コスモス畑には、再来週明けにある祝日に行こう。きっと一番の見頃だと思う」

 そう言って小さく微笑んだ僕を見て、安樂は露骨に顔を顰めた。ユミさんが彼を一瞥したあと、笑顔に戻って僕に向き直る。