遠慮がちな声は、お喋りが止まった店内によく通った。彼女の後ろに立っていた癖毛のセミロングの女性は、ひどく小柄で薄化粧の顔は幼さも窺えた。どちらも店内の第一印象は悪くなかったようで、それぞれが期待感にドキドキしている初々しさを漂わせていた。

 女性のお客さんなんて珍しい。僕がそう思っていると、雑誌の取材を受けて良かったと喜ぶ店主よりも先に、数分前に安樂に喝を入れた男がにんまりと笑って立ち上がってこう答えた。

「むさ苦しい男の店へようこそぉ!」

 彼がシャツの下の贅肉を揺らしつつ、機敏にポーズまで取って歓喜を見せた。

 おいおいおい。その第一声はないだろう、常連その1よ。

 僕はそう思って、意見を求めるように隣の安樂を見やった。直前まで泣いて相談していた彼は、恋する乙女のようにうっとりとして「若くて美人だなあ」と呟いていて、奥さんの件はどうしたよと張っ倒したくなった。

「歓迎するよ、お客さんはビールかな?」