「女には素直に謝るしかねえ!」

 その男は、新しく入ってきた客と同じくらい、ぐでんぐでんに酔いかけているようだった。凛々しい様子で拳を掲げて、「いいか若造!」と三十五歳の安樂に力強く言う。

「女には男の嘘なんてお見通しなんだ。愛してんなら、本気で謝らんと駄目だ」

 腰を浮かせてそう力説した五十代の彼の向かい側で、部下らしき四十代の男二人が「うんうん」と肯く。ウインナーをつまんだ二人のサラリーマンは、会話を途切れさせて、暇を弄ぶようなだらしない座り方でこちらを傍観していた。

 すっかり注目されてしまっている。僕は、今すぐ逃げ出したくなった。上司ほどの年齢の酔っぱらい男に喝を入れられた安樂が、鼻をすすって希望がちらつく目を彼へと向ける。

「それ、本当っすか? 謝ったら、ラブラブしてくれると思います?」

 安樂が、助言を求めて情けない声で尋ねた。その男は「そうだとも」と自信たっぷりに答えてから、部下らしい二人との話しに戻っていった。