どちらも、意地が強かったのだと思う。喧嘩なんてしないような大人しい二人だったから、怒鳴り声もない小動物同士のむっとした対立だったようにも思う。

 思い返せば、はじめての旅行先も海か山で意見が割れたものだった。デートでは行き先なんて意地を張らなくても良かったのだけれど、初めてのお泊りとなると、彼女にも理想の形があったのかもしれない。

 結婚式のプランでは、僕は彼女のお姫様のようなウエディングドレス姿が見たかったし、彼女は貴族のような格好をした僕を見たがって、互いに主張し合った。でも互いに「着て欲しい」「見たい」と素直に言えず、僕らは「女はこうであるべき」「男の人は普通こうじゃないかしら」と言い合ったわけだ。

 多分、あの頃はまだ若かったんだろう。

 彼女が素直な言葉を口にするようになったのは、いつの頃からだったろうか?