「つまり二人で歩いていたんだろ。それなのにお前は、その時ユミさんの隣にいながら、堂々と別の女の尻を目で追っちまったって事じゃないか。なら、お前が悪いよ」

 割り箸から手を離した安樂が、憐れむように僕を見た。割り箸がビールジョッキの中で、流動しているビールに引かれるように、ゆっくりとグラスの縁を滑っていく。
 ややあってから、彼かふうっと息を吐いてビールジョッキから割り箸を引き抜いた。その横顔は、『馬鹿なお前に教えてやるぜ』と悟りを得たような表情をしていた。
 僕は、言葉もなく人を苛立たせる人間っているんだな、と思いながら見ていた。すると、奴が案の定、こんな言葉を切り出してきた。

「お前は分かっちゃいねえよ」

 お前にだけは言われたくない。

 そう言おうとした言葉は、目の前に塩焼き鳥が置かれてタイミングを見失った。安樂はビールを飲み干すと、店主に追加注文してまた一から話し始めた。