朝一番でカレンダーを眺めて、過ぎた日付にバツ印を付ける。
 もうコスモスの季節が訪れていた。読み慣れた地方新聞では、今月に満開になるコスモスの見頃を伝えてもあった。

 移ろう季節には、それぞれ沢山の匂いが溢れる。たとえば風の中には独特の空気が漂っていて、そこに潮の匂いや植物の香りを膨らませるのだ。目を閉じると、まだ残暑の残る日差しの下に揺れるコスモス畑が、その清潔にも似た香りを伴って瞼の裏に蘇ってきたりする。

 カレンダーはもう九月に変わって、数日が過ぎた。
 今月には、大切な日がある。

 僕はそう思いながら、その大切な日付にマジックで赤い丸をつけると、会社へ向かうため鞄を手に取った。

「いってきます」

 靴を履きながらそう言って、僕は相変わらず返事も待たずに玄関を出る。

 その拍子に、ふと、素直じゃないんだから、と笑う妻の顔が思い出された。だって仕方ないじゃないか、と記憶の中の僕が不機嫌な声を上げるのも聞こえた。