大嫌い。大嫌い。必死に繰り返した。敬人に告白した女子も、それをすんなり受け入れてしまう敬人も、大嫌い。

あれほど好きだった敬人を簡単に嫌いになる自分はもっと嫌い。もう、なにもいらない。なにも欲しくない。なにも、求めたりしない。

 何度誓うように繰り返しても、教室に行ってしまえば目が勝手に敬人を追う。笑っているのを見て悲しくなる。あんなふうに、そばにいてほしいのに。

 敬人と目が合うたび、私は私を否定する。敬人なんか見ていない。本当にそうかしら。あんなに好きだったくせに。大嫌い。

 何度も永遠を握り潰す。手のひらに爪と輪の跡がつくほど、強く握る。こんなもの、いらない。永遠なんて、絆なんて、ありはしない。どうせ嘘だ。

 来る日も来る日も、左手で輪を握って右手でページをめくった。敬人を自分を呪うことに疲れたのだ。怖いなら、見なければいい。私は勉強というところに、意識を逃がした。

 中学校生活が終わりに近づく頃には、私はいくつかの検定に合格していた。背伸びはしないと決めていた。それでも英語と数学に限っては、気づけば最上級まであと一つ二つというところまで進んでいた。

達成感などない。なにかに追い立てられるように机に向かい、シャープペンシルの芯を擦り減らし、ノートの白に文字を刻んだ。

それに意味があるものか確かめてみたら、合格の通知がきたのだ。今までの私ならどれだけ喜べただろう。このままもっともっとと、勉強が楽しくて仕方がなかっただろう。どんどん立派な人になっていくような感覚に幸福を見出したことだろう。

 中学校卒業の直前に、茂木さん——私をくみちんと呼び、敬人にげきちんなんて呼ばれている美少女好きを自称する女の子——に、「久しぶりじゃん」と声をかけられた。

「高校、どこにしたの?」と訊かれ、「下浜高校」と簡潔に答えた。「おっ、そうなんだ」という表情がなんとなく引っかかったけれど、そこに触れるより先に茂木さんが進む高校に話題が移ってしまった。

ここからは遠いところに住む女の子のかわいさに期待していると熱弁された。きっとこの辺りにいる美少女とは雰囲気が違うと思うの、とか、きっとこの辺の美少女より華があると思うの、とか、相槌を打つにもどうしようかと困り果てる話しぶりだった。

「いやいや、この辺のくみちんとかの美少女が地味だっていってるんじゃなくてね、清楚な感じだと思うんだよ、この辺の美少女って。でもさ、もっとあっちの都会な感じの方の美少女はもう、自分のかわいさを存分に楽しんでるような、そういう美少女がいると思うのよ。え、そう思わない?」と。なにもわかりやしなかった。