もう、敬人の支えなんていらない。毎朝、毎日、毎晩、何度も何度も強く思った。

 敬人がいなくても大丈夫。

 ふと「こういうのって、恋っていうんだろうね」という敬人の声が蘇った。私の頬を撫でて、甘く、深みのある声で、囁くようにいわれた言葉。

 永遠を握った手に色のない熱が落ちて弾けた。なんで、と熱が込みあげてくる。じゃあ、なんで。

 なんで置いていくの? なんで一緒にいてくれないの?

 敬人がいれば、それでいいのに。それだけでいいのに。

 敬人以外にはなにもいらない。敬人が敬人としてそばにいてくれれば、それ以上はもうなにも求めない。周りに誰もいないでなんてわがままもいわない。ただ、一緒にいたい。そばで声が聞きたい。

自分に向けられた言葉の一つ一つを、失くさないで大切にしまって、一日一日を生きていきたい。優しい笑い顔を、ほんの少しずつ違うその笑い顔を、忘れることなくずっと胸の奥にしまって、一緒に過ごしたい。

 そんなに、わがままだろうか。そんなに、身に余る幸福を求めているだろうか。怒ったっていい。笑ってくれないことがあったっていい。敬人は人間だから。それは違うと否定してくれていい。喧嘩になったっていい。ごめんねといったとき、簡単に許してくれなくたっていい。何度目かに、そっと笑ってくれたらいい。なにも、特別ではないはずなのに。

 どうして、一度は敬人も私を見てくれたのに、どうして、叶わないの。一緒にいたいだけなのに、どうして、そっちに行っちゃうの。どうして、置いていくの。

 敬人——。