学校に行けば、現実を突きつけられる。あちこちで求められ、あちこちに穏やかな笑みで接する敬人の姿が見える。左手の中の永遠を、絆を、ぎゅっと握る。

全部がなくなったわけじゃない。全部、失ったわけじゃない。敬人を求めている人が私以外にもたくさんいるだけ。

私はみんなより先に敬人の優しさに触れて、それを独り占めにしていたから、そのつけが回ってきているだけ。なにも変なことじゃない。

幸せは、誰にも平等に与えられるべきだ。独り占めなんてしようものなら、あとでその代償を、代価を払わなくてはならない。私は今、それをしている。

 あれだけ一緒にいたのだから、私はもう、敬人がいなくても大丈夫。一人でもやっていける。敬人がいなくても、大丈夫。ありがとう——なんてまだ、いえないけれど。そのうちにいえるようになる。

大丈夫、だってあれだけ一緒にいたんだから。みんなよりずっと長い間。敬人が受け入れた女子より早くから、一緒にいた。

大丈夫、いっぱい話をした。いっぱい、ぎゅっとしてもらった。父よりもしてくれた。家族よりも多く、私は敬人と一緒にいた。触れ合った。大丈夫、いっぱいある。いっぱい、溜まってる。

一生分の敬人が、私の中にある。一生分の敬人の声を、優しさを、私はこの六年ほどで受け取った。生きていける。大丈夫、ちゃんとできる。なにも、怖くない。

 大丈夫、なのに——。

 どうして、泣きそうになっているのだろう。どうしてまだ、名前を呼んでほしいのだろう。まだ、一緒にいたいのだろう。

 左手の中の永遠を確かめる。確かにある。永遠を、私は持っているのだ。なにも怖いことなんてない。敬人がくれた永遠。こんなにも価値のあるものはない。

 なのに、どうして——。

 「くみちん?」と声がして、慌てて何度か瞬きをして顔をあげる。ゆりの、というかわいい名前の女の子がいた。

 「茂木さん」

 「目、赤くない?」

 「ううん、大丈夫」

 「泣いた?」

 「玉ねぎも切ってないのに?」

 「なんかあったんしょ、敬ちんと」

 「なにもないよ」と答えると、茂木さんはなにかいいたそうな顔をした。

 本当になにもない。あるのは、永遠だけ。永遠の、絆だけ。