げきちんは遠くの私立高校を第一志望としたらしい。俺には「都会の少女はさぞ美しいことだろうなあ」とわざとらしく下品に笑っていたけれど、遠くでは「茂木は頭いいからね」という声も聞いた。

 「敬ちんはどこにするの?」といわれ、「下浜かな」と答えた。

 「近いねえ」

 「通学は楽な方がいいよ。三年もあるんだし」

 「まあねえ……」

 「げきちんは美少女を見に行くんだっけ?」と茶化すと、彼女は「そうよ」と当然のように頷いた。

 「やっぱ田舎とは違うはずなのよ、美少女の質が」

 「質って」と俺は苦笑する。「ここもいうほど田舎ではないと思うけどね」

 「でも地方都市なんて立派な呼び方されるような場所でもないじゃん?」

 「そうだけど……」

 「にしても下浜ねえ。敬ちんって勉強得意だったっけ?」

 「数年って、たまに人をすごい成長させるんだよ」といっておく。寂しさと後悔を紛らわせようと勉強に逃げたともいえない。

 「そういえばさ」といって、げきちんは「あ……いや、やっぱなんでもない」と黙ってしまった。「なによ」とふざけて笑ってみたけれど、「ど忘れ」といわれてしまえばどうしようもない。