ふと、自信という可能性に気がついた。敬人が、もっと持っていいといってくれたもの。漠然と欲していたもの。

 自信——?

 自信って、なんだろう。自分を信じること? 信じるのは、自分?

 自分のなにを信じればいい。生きていること? 敬人を好きなこと?

 敬人を好きなことを疑ったことなんて一度もない。敬人が好きだ。大好きだ。だから怖いんだ。大好きな敬人に嫌われるのが、大好きな敬人に置いていかれるのが。——大好きな敬人に、見てもらえなくなるのが。

 自分を、信じる。敬人のそばにいられると? 自分は敬人と対等な存在であると? そんな幻に縋ったって、現実は変わらない。

 そこで、ふと気がついた。『嘘』だ。嘘でいいのかもしれない。自分は敬人のそばにいるのにふさわしい人間だと、自分は敬人と対等な存在であると、自分に嘘をつく。

そうだ、どうせ一度は嘘しかないと諦めた世の中に生きているのだ、自信なんて曖昧なもの、嘘だっていいのかもしれない。自分に嘘をつくくらい、罪ではないのかもしれない。

 ——私は、敬人の隣にふさわしい人間。私は敬人のように強く優しく、美しい心を持っていて、絵本のうさぎさんのように誰かに差し出せるものをたくさん持っている。

私は敬人を幻滅させるようなことはしないし、ずっと敬人の隣にいられる。なにも怖くない。怖いものなんて、なにもない。大丈夫、大丈夫。敬人に置いていかれるようなことはない。敬人に嫌われるようなことはない。大丈夫。

 自分に暗示をかけるように胸の内側で説いた嘘は、少しだけ不安をやわらげた。大丈夫、大丈夫。怖くない。私は敬人を失わない。大丈夫、大丈夫。——怖くない。