部屋に入ると、敬人は「拓実」と私を呼んだ。どこか緊張を纏ったような声に怖くなる。

振り返ると、彼は「これ、……あげる」と親指と人差し指の間に挟んだ小さな袋を差し出した。鮮やかな青色の袋だった。

 「これ?」とその目を見返すと、敬人は浅く唇を噛むようにして頷く。

 恐々受け取ったその袋は、決して重くはなかった。手のひらほどの大きさの四角形の袋。しっとりしたような、不思議な触り心地の素材だった。中になにか小さいものが入っている。

 「……開けていい?」

 敬人が頷いたのを確認してから、袋をとめているセロハンテープを剥がし、折り畳まれたところを伸ばす。中に入れた指先が触れたのは、細い紐のようなものだった。

摘んで引き出したのは、その紐にぶらさがりストラップのようになった、幅のある輪っかだった。輪をよく見てみれば、内側に『Make you happy』と刻まれている。外側には透明な石が五つ埋め込まれている。

 「誕生日」と敬人はいった。

 袋の中には正方形の厚紙のようなものも入っていた。見れば、『4月の誕生石 ダイヤモンド 永遠の絆』と三行の文字が横に並んでいた。

 驚いて「ダイヤモンド」と声が飛び出した。「いや」と敬人も慌てたようにいう。「あの、俺のお小遣いでお釣りくるタイプのやつ」と。

 「いろいろあるの?」というと、敬人は恥ずかしそうに笑った。

 「指輪みたい」

 右手で輪を通してみたのは、薬指だった。そういうものではないから、当然長く着けていられるようなものではなかったけれど、内径はちょうどよかった。

 永遠の絆。甘く幸せな響き。永遠。絆。敬人との間に欲しい全部だった。

 私は左手を唇に近づけ、その石に口づけをした。

 「ありがとう、敬人」

 どんどん、欲張りになっていく。失いたくないものがまた一つ、増えた。

 「誕生日おめでとう、拓実」

 『Make you happy』——あっという間に幸せになった。

 敬人の胸に寄ると、優しく受け入れてくれる。

 「これからもよろしくね」

 敬人は喉の奥で笑った。

 「こちらこそ」