敬人がそばにいてくれるという安心感はとても大きかった。敬人が私のいる将来を描いてくれていることが至上の幸福だった。敬人の描く将来に自分がいる。こんなにも幸せなことはない。

これから先も敬人がそばにいてくれる。敬人のそばにいられる。その身に余るほどの幸福を手に入れるのは、少し怖いような気もした。けれど、それ以上にそれを手にする機会を失うことが怖かった。

 敬人のそばにいるのにふさわしい人間になる。今のままではきっと、みんなに妬まれる。敬人はそんなことはないといってくれたけれど、そんな敬人だから私のそばにいようと思ってくれているのだ。

その優しさに、お礼をしなくてはならない。敬人に、その判断を後悔させてはならない。ずっと、敬人の隣にいたい。そのためにも、敬人のように立派にならなくてはならない。優しく美しい心を持った、立派な人。

 敬人はすっかり、出会った頃とは変わっている。濡れたような目はしないし、明るいところはいろんなものが見えると怯えることもない。

守るつもりでいたのに、追いかけるようになっている。いつかに彼の手放した愛おしい儚さは、優しさとなって彼の内側を巡って満たしている。

 勉強は続ける。敬人に置いていかれたくない。少しでも賢くなって、いいところに就いて、働く。私にできるのはきっとそれくらいだ。優しくなりたいと思う。強くなりたいとも思う。

けれど私には、人を想えるほどの余裕がない。敬人に置いていかれないように、見限られないようにするだけで精一杯だ。

 優しさってなんだろうと、よく考えるようになった。敬人のようになりたいから。敬人のそばにいるのにふさわしい人になりたいから。

敬人は優しいから、きっと、優しい人が好きなはずだ。私より優しい人なんていくらでもいる。それに触れて気づいてしまえば、きっと、花火のあがった夜空を見あげるように、ふと呼ばれて意識を向けるように、敬人の中から、私はいなくなってしまう。

感じるたびに恐ろしくなる、限りなく確信に近い予感。