卒業式の日、式が終わってから食事会のようなものが開かれたけれど、参加するか否かは自由だったので、俺は拓実に誘われるまま彼女の家に行った。

 部屋に入ると、拓実はコアラが木にくっつくように飛びついてきた。体勢を崩して倒れそうになるのをなんとか耐えた。彼女は無邪気に笑い声をあげる。

 おろそうにも絡みついた脚を解いてくれる気配がなく、そのまま寝かせるようにするも彼女は抱きついたままで、仕方なく抱き合ったまま横向きに寝転んだ。そこで脚が解かれた。

 「春休みなんて、明けなければいいのにね」と拓実は静かにいった。「そうだね」と俺も答える。

 「学校なんてなければ、ずっとこうしていられる。敬人といられる」

 「学校は同じだよ」

 「クラスが違うかもしれない。沖小もくるから、クラスも増えるよ」

 「うん……それもそうだね」

 「ずっと」といって、拓実は胸の辺りに頭を寄せてきた。「敬人と同じクラスがいい」と愛くるしい声がいう。

 「小学校の一二年生たちみたいに、一クラスならいいのにね」

 「本当。沖小は私たちと同じ学年も一クラスみたいだったね」

 「そうだっけ」

 「ほら、陸上大会、一緒にやったじゃん? そのときに喋った人がいるんだけどね、一クラスだっていってた。里城小は多いねって」

 「そうなんだね」

 きゅっとくっついてくる拓実がかわいくて、この感情をどうしようかと少し困る。

 「ねえ、敬人」

 「うん」

 「中学校も一緒に行こうね」

 「もちろん。……でも、噂されるかもよ」

 「なにを?」

 「峰野さんほどの女子が尊藤なんかと付き合ってやがるって」

 「逆じゃなくて? 私が女子に嫉妬されるんだよ。なんであんな子が敬人君と一緒にいるのよって」

 「それはないよ」と俺は思わず笑った。

 拓実が顔をあげ、上目遣いっぽく見つめてくる。「じゃあ」とかわいらしく笑う。

 「お似合いかな、私たち」

 かあっと体中が熱くなるようで、今度は俺が顔を隠したくなった。

 「ならもう、怖いものはないよ。私、みんなに自慢しちゃう。敬人がそばにいてくれるんだよって。私は敬人の優しいところみんなよりいっぱい知ってるんだよって」

 拓実がふふっといたずらに笑う。「顔赤くなってる」と。

 「うるさい……」

 拓実は改めてきゅっとくっついてきた。

 「ねえ、敬人」

 「うん」

 「大好きだよ」

 腕の中の愛おしさを、壊さないよう、大切に大切に抱きしめた。