その次の日から、拓実は俺に庭を見ることを許さなくなった。本当に恐ろしい光景がそこに広がっているかのように、俺を抱きとめ、視界を奪う。

「敬人」、「敬人……」とまじないのように俺の名前を呼ぶ。苦しいほど、そこに熱が生まれるほど、腕を強く体へ巻きつけてくる。

 今までの拓実の気持ちが、少しだけわかったような気になった。今の拓実は、今までの拓実の見ていた俺に似ているのではないだろうか。

目を覆うのは拓実のままだけれど、目を覆われるのは俺のままだけれど、俺と拓実は、反対になったように思う。

 「敬人、だめだよ」

 「……拓実」

 「そっちは危ないよ」

 そういわれてしまえば、今までの自分に戻っていくようにも感じる。拓実に危険だといわれてしまえば、怖くなる。本当に危険がそばにあるような気になる。夕刻の夜闇に、危険が潜んでいるような気になる。

見えないどこかから恐ろしい手が掴んでくるような、それにどこかこことはまるで違うところへ引き摺り込まれるような、予感めいた恐怖が湧きあがってくる。この辺りには見てはいけないものがあるような、確信めいた恐怖が体の奥を満たしていく。

 「拓実」

 「うん、ここにいるよ」

 「……拓実、怖いの?」

 全身で感じる拓実のどこかが、ひくりと震えた。

 「……うん、怖い。ここは、すごく怖い」

 「どうして?」

 「危ないものがね、いっぱいあるの。すごく、怖いところへの通り道なの」

 「そうなの?」

 俺は拓実の腕に触れ、少し力が緩んだところを拓実と向き合う形になった。泣いたはずではないのに、濡れたような潤んだような目をしていた。愛おしくて、悲しくて、そっと抱きしめる。

 「部屋、戻ろうか」

 いってみると、拓実の白い手が俺の服をきゅっと掴んだ。