夢を見た。テストの点がどんどん悪くなる。教科書を読んでも読んでも、内容が理解できない。黒板に書いてある文字さえ、なにをいっているのかわからない。やがては文字が読めなくなり、書けなくなった。

 目が覚めたとき、呼吸が荒くなっていた。すぐに携帯電話で時間を確認した。日付も時間も、確かに読めた。もしも本当にあんなことになったらと想像すると震えそうになる。

 ちゃんとしなきゃ、と体の芯が呟く。ちゃんと、ちゃんと。ちゃんと勉強して、ちゃんと賢くなって、世の中でちゃんと、生きていかなくちゃ。敬人がいなくなっちゃう。敬人が、離れていっちゃう。ちゃんとしないと、敬人に嫌われちゃう。

 嫌だ、嫌だ。敬人に会いたい。大丈夫だよと、どこにも行かないと、いってほしい。でも、とも思う。いくら敬人だって、こうも何度も弱いところを見せれば嫌になるだろう。

嫌になったら、どこかへ行ってしまう。私を置いて、遠い遠い世界の中心の方へ溶けて消えてしまう。嫌だ。それだけは嫌だ。置いて行かないで。私のそばにいて。

 ちゃんと、しないと。どうにか、敬人がそばにいてくれるように、敬人のそばにいさせてもらえるように。敬人がどこにも行ってしまわないように、敬人にそばで笑ってくれるように。

将来、敬人のいる家に帰れるように。今のうちから、ちゃんとしておかないと。もっと怖いところへ出ていかなくちゃいけないから。今のうちに、強く、立派になっておかないと。

敬人に甘えるのは、敬人にぎゅっとしてもらうのは、もう少し先にしよう。立派な学生を頑張ったご褒美にしよう。それくらいなら、きっと、敬人は許してくれるだろう。

頑張ったねと、笑顔も見せてくれるかもしれない。敬人に、いってらっしゃいとおかえりをいってもらうのにふさわしい、ちゃんとした人にならないと。

頑張って学生をやりきれば、敬人がおはようからおやすみまでいてくれる。家を出ていく怖さを癒してくれる。

 敬人、私、頑張るよ。だからあとで、頑張ったねって、ぎゅっとしてほしい。