朝から予約を入れられて、授業に集中できるはずがない。
拓実の欠席、担任からの呼び出し。なにもないはずがないと、それだけはもはや確信にさえ似ている。けれど、問題というのは見つけたところではなんの価値もない。その解決策を見つけて初めて価値を持つ。
けれども、俺にはこの問題に価値を持たせられない。時間があればどうにかできるというものでもないように思う。いかんせん俺には思い当たることがない。
拓実とはもうずっと口を利いていない。同じ教室で一日過ごしていて一度でも目が合えばいい方だ。それも数日に一度、一秒にも満たない数秒間。その一瞬とも現せそうな時間が嬉しかった。その時間に見える冷たく鋭い目つきが寂しかった。
もう何年も冷え切った関係が続いている。話ができるわけじゃない、目が合っても知らないように、その一瞬の繋がりを否定するように目の奥の表情が凍てつき、ふっと逃げていく。俺が今朝、窓際の席の女子にしたように。
俺は拓実に嫌われている。四年前の罪が原因だ。俺は拓実を救えなかった。彼女の精一杯の救難信号を見捨てたのだ。嫌わないでほしいなんて、許してほしいなんて思わない。許せなくて当然だ。拒絶して当然だ。それでいい。そのまま、幸せになればいい。
拓実は素敵な女の子だ。俺の知らないことをよく知っている。拓実はいつだって俺のできないことを易々と遣って退ける。俺よりじょうずに体を動かし、言葉を操り、紙の中の問題を解くのさえ器用にこなす。そして、「なにも難しいことじゃないよ」と笑う。
それから、「敬人にだって簡単にできるよ」といってくれる。この世界でじょうずに生きていける人だった。じょうずに自分を表して、じょうずにこの世の中に溶け込める人だった。
しかし、どうしようもなく生きづらいことだろうとも思う。拓実は繊細な女の子だ。だから、疲れてしまう。俺はそれを少しでも癒したかった。けれどもできなかった。俺の鈍感さが罪を犯した。そしてその鈍感さを生んだ愚かさでは、罪を償うこともできない。
拓実の欠席、担任からの呼び出し。なにもないはずがないと、それだけはもはや確信にさえ似ている。けれど、問題というのは見つけたところではなんの価値もない。その解決策を見つけて初めて価値を持つ。
けれども、俺にはこの問題に価値を持たせられない。時間があればどうにかできるというものでもないように思う。いかんせん俺には思い当たることがない。
拓実とはもうずっと口を利いていない。同じ教室で一日過ごしていて一度でも目が合えばいい方だ。それも数日に一度、一秒にも満たない数秒間。その一瞬とも現せそうな時間が嬉しかった。その時間に見える冷たく鋭い目つきが寂しかった。
もう何年も冷え切った関係が続いている。話ができるわけじゃない、目が合っても知らないように、その一瞬の繋がりを否定するように目の奥の表情が凍てつき、ふっと逃げていく。俺が今朝、窓際の席の女子にしたように。
俺は拓実に嫌われている。四年前の罪が原因だ。俺は拓実を救えなかった。彼女の精一杯の救難信号を見捨てたのだ。嫌わないでほしいなんて、許してほしいなんて思わない。許せなくて当然だ。拒絶して当然だ。それでいい。そのまま、幸せになればいい。
拓実は素敵な女の子だ。俺の知らないことをよく知っている。拓実はいつだって俺のできないことを易々と遣って退ける。俺よりじょうずに体を動かし、言葉を操り、紙の中の問題を解くのさえ器用にこなす。そして、「なにも難しいことじゃないよ」と笑う。
それから、「敬人にだって簡単にできるよ」といってくれる。この世界でじょうずに生きていける人だった。じょうずに自分を表して、じょうずにこの世の中に溶け込める人だった。
しかし、どうしようもなく生きづらいことだろうとも思う。拓実は繊細な女の子だ。だから、疲れてしまう。俺はそれを少しでも癒したかった。けれどもできなかった。俺の鈍感さが罪を犯した。そしてその鈍感さを生んだ愚かさでは、罪を償うこともできない。