敬人は私の服装について、洋装よりも和装が好きだといった。それは決して強制するような様子ではなく、ただ自分の思ったことをいったという感じだった。私にはそれが嬉しかった。敬人の好きな私があることが嬉しかった。

それ以来、敬人と会う休日には和服を着ることにした。私はお上品なお姉さんで、自宅は由緒正しい豪邸。敬人は近所に住む大人しいおぼっちゃま。

そんな想像の世界に酔って、敬人と遊んだ。着物は一着しか持っていなかったけれど、帯留めはいくつも持っていた。帯留めを毎度変えていたのを、敬人は気づいていただろうか。

 敬人に菊の花をあげたことに、大した理由はなかった。いつも一緒に遊んでくれるお礼といった程度だった。菊を見て、自分の気に入っている髪飾りと同じ花だとわかった。

敬人に菊を贈った理由らしいものに、髪飾りと同じ花だったらいつも彼と一緒にいられるような感じがしたというのもあるかもしれなかった。

 敬人がその花と髪飾りが同じであることに気づいてくれるかには拘らなかった。自己満足という言葉があまりにふさわしい。

 小学校にあがって一度目の秋、花屋であざやかな赤色の菊の花を見つけた。母にねだって買ってもらい、一緒に遊ぶことになった休日、どきどきしながら「敬人君、お花好き?」と声をかけた。

好きじゃないとかいらないとかいわれてしまっては恥ずかしいので、「これあげる」とすぐに体の後ろに隠していた菊を差し出した。

 敬人は喜んでくれた。「ありがとう」と咲いた笑顔がどうにもかわいらしかった。大好き、と抱きしめたくなった。なんてかわいい男の子だろうと思った。

そんな私の目の前で、敬人は興味深そうに菊へ鼻を寄せると、私を見てまたふわりと笑みを咲かせた。際限なく膨らむ愛おしさに、胸の奥が風船のように割れてしまいそうだった。

 「このお花、拓実ちゃんみたい」といってくれたのがとても嬉しかった。