「全部、嘘なの?」と彼はいった。

 ああ、なんて——。

 同い年の男の子がか弱い存在に思えた。なんて可哀想な子だろうと思った。敬人はなにも知らないんだ。この世の中には本当のことなんてない。みんなみんな嘘でできている。

この子は、敬人はそれを知らない。この先、この綺麗で儚い心がどれだけの傷を負ってしまうだろうと想像すると、怖くて悲しくて、つらくてたまらなくなった。

 「そう。全部嘘なの。本当のことなんて一つもない」

 だから、傷ついちゃだめだよ。本当でもないことに、繊細に敏感に反応してあげることなんてない。

 本はやはり好きだった。あれからもたくさんの本を読んだ。読んでいる間はとても楽しかった。けれども、読み終えてしまえば虚しさが残った。

自分の見てきたものは幻なんだと思い知らされるような心地がした。なにが本当でなにが嘘なのか、まるでわからなくなった。私は確かにあの動物たちに出会った。こんなふうになりたい、こんな生活がしてみたいと強く願った。

けれど、動物たちが本の中にしかいないことが、頭の中に割り込んでくるように思い出される。本の中にいる動物たちは本物だ。

けれども、動物たちが私のいるのと同じ世界で動いていることがないのも、動物たちが暮らしている優しい世界がここにないというのもまた、ある種の本物だった。

動物たちと会えるのは本の中でだけ。本の中にある以外の言葉を、この動物たちから聞くことはできない。

 ママは、嘘つき。絵本の中の世界に縋るために導き出した答えは、あまりに残酷だった。母を嘘つきだと思い続けるのは苦しかった。母のことは信じたかった。そこで、ふと気がついた。

 ママが嘘をついてるんじゃない、世界に本当がないんだ——。

 世の中に嘘しかないのであれば、母の嘘は決して責められるものではない。

 ママは、悪くない。