「こうやって……両手でぽんぽんって、上に落としてごらん」

 いいながら、拓実はなんでもないように左右の手のひらへ玉を落とす。手元の玉を見てみると、まんまるというよりは少し細長い形をしていた。

 「こう……弾ませるみたいに」

 なんとなく勇気が出ずにいると、拓実は「落としたっていいんだから」と笑った。

 「上に投げて、落ちてきたらまたすぐに上に投げるの」

 いわれるまま、右手に載っているのを投げあげた。左手にある方を投げる前に落ちてきた。

 「そうそう」と拓実は楽しそうに声を弾ませる。左右の手で小気味よく玉を投げあげながら、彼女はその手元を見ていなかった。

 「ぽんぽんって両手でできれば、もう簡単だよ」

 右手で少し高く投げあげ、落ちてくる前に左手でも投げあげた。少し時間差があって、両手に玉が落ちてくる。

 「そうそう」と拓実の声が弾む。

 「それをずっとやって、今度は斜めに投げるの。右手と左手でキャッチボールするの」

 拓実の手元で踊っていた玉の動きが変わる。複雑に飛び交い、手つきの軽やかさが増す。

 しばらく、両手の上で弾ませるように玉を投げあげた。次第にその難しさに鈍感になってくる。

調子に乗って、左手の玉を右手の方へ、右手の玉を左手の方へ投げてみた。途端に形が崩れ、玉があらぬ方へ飛んでいった。

 「ふふふ」とあがる拓実の笑い声に、「どっかいった」と呟く。拓実は自分の投げていた玉を畳へ置き、「どこいった?」と畳に手をついてきょろきょろする。

俺も同じようにして探す。「ああ、あった」と声があがり、「どこ?」と返すと「一個、あっち」と壁の方を指さされ、俺はそちらへ向かった。「ああもう一個もあった」と声があがり、俺が戻るのと一緒に二つの玉がそこへ戻ってきた。