さらさらとした雨音の中、俺は赤い菊を見つめる。私がくたばる前に、と昨日の夜にいっていたのに、これはくたばってはいないのだろうか。ずいぶんと水気がなくなっている。

 「お菊」と呼んでみる。初めてのことだった。

 「私にはそんな名前があったのか」と昨日の声がした。振り返れば、俺の布団の上に赤髪の少女が座っている。濃緑の着物を着ている。

 「よかった、無事だったんだ」

 「これが無事に見えるか」という通り、肌や唇が乾いているように見える。髪の毛の艶も昨日の夜と比べるとないように感じる。

 「でも、こんな私も美しいだろう。花は枯れる直前が最も美しいものだ」

 「そうなの?」

 「美しいだろう? 今の私も」お菊の目はどこか縋るようなものに見えた。

 俺は喉が震えるのを感じながら笑った。「すごく綺麗だよ」

 「お前は今日、峰野拓実に会え。藤村修平はきっと教えてくれる。……今日が限度だ」

 「お菊が枯れたら、拓実はどうなるの?」

 「逆だね。峰野拓実が変わるから私が死ぬんだ」

 「拓実はどうなるの?」

 「愛せなくなる」

 「誰を?」

 お菊は華奢な肩をすくめ、いたずらに笑った。