何日が経ったか、まだ退院できない。なんでもかなり危険な状態だったらしい。母の血が今の私を生かしているのだと、笑う余裕を見せた私に母がいった。死んではいけないと、一層強く思った。

 つらいところを訊かれるたび、ここにいることがつらいと正直に話した。夢の中で先祖に会ったと嘘をついた。そこで諭され、今はここにくる直前のことを後悔しているといった。

「しぶとく、図々しく、生きていきます」と笑った。それが効いたか、近々退院し、それからはしばらく通院する運びとなった。

 看護師さんと話すたび、早く帰ってやりたいことがあるとあれこれ嘘をついた。本当にベッドしかないような部屋だから、ほとんどのことがここを離れなくてはできないことだった。

 雨の降る夕方、扉が開いたとき、私はようやく罰を受けた。制服に面会の証明書を貼りつけ、袋に入れた傘を持った敬人を見て、心臓が止まるかと思った。罪の重みと、それののしかかる痛みだった。

 「なにしにきたの」というのは本音だった。「会いたかったんだ」といわれてなんと答えたか、つい先ほどのことなのに憶えていない。

 昔の話をして、気がついたら敬人の優しさに包まれていた。雨の湿った匂いと、敬人の匂いがした。自分が泣いているのに気づくのに時間がかかった。なんで、と苦しくてたまらなかった。なんで、嫌いになってくれないの。

 なんでそんなに優しいの。また、一緒にいたくなっちゃう。もう二度と、離れたくなくなっちゃう。

 「俺でいい?」といわれて、明るい未来は見えなかった。「敬人がいい」と自分の声が聞こえて、訳がわからなくなった。

 「俺も、拓実がいい」と優しい声がして、怖くなった。体から力が抜けた。咄嗟に彼といる未来を拒んだのだ。けれども、敬人から離れることは許されなかった。

 そういうことか、とやっとわかった。

 私は一生、敬人を騙さなくてはならない。簡単にあふれ出す醜い自分を封印し、今度こそ本当に、敬人の隣にいるのにふさわしい人にならなくてはいけない。

傷つけたことを謝ることができない。打ち明けることもできない。そうして、日々罪をふくらませ、あふれないように抑え込む。どれだけ苦しくても、敬人と二人きりの未来、助けてくれる人はいない。

 この件に関しては、一生、トキに罪を着せ、敬人を騙し、醜い自分を抑え込まなくてはならない。

 今までとは違う、もっとじょうずに、愛さなくてはならない。

 しぶとく、図々しく、生きていかなくてはならない。