男性はひどく酔っているようで、八つ当たりに似た罵声を二人の少年に浴びせていた。雪弥は大人げなさを感じながらも、二人の少年に「こんな時間に何をしているのだ」と思わずにはいられなかった。


 大人として対応するのも面倒になり、躊躇することなく彼らに歩み寄って、雪弥は男性の背後に立った。革の財布を振り上げる毛深い手首を軽く掴み、その動きを止める。


 次の瞬間、体重八十キロは越えているであろう小太りの男性が、巨人に振り上げられた小人のように、宙を一回転して地面に叩きつけられた。手加減されたため顔面骨折もしておらず、打撲だけで意識を飛ばして静かになる。

 雪弥は、男の意識が衝撃で飛んだことを確認し、視線を持ち上げて呆れたように二人の少年を見やった。

「君たち、こんな時間に何してるの」

 右頬を赤く腫れ上がらせた修一が、背中を壁に預けながら半ば茫然と雪弥を見上げた。修一を庇うように身構えていた暁也の赤いシャツには靴跡がつき、額の左側が薄い打撲となって盛り上がっている。

 考えてみれば、咄嗟に助けてしまった自分も深夜徘徊だ。出歩いていた言い訳を考えながら、ひとまず二人を助け起こして手を引いたまま大通りへと足を向けた。

 助けてくれた雪弥に対し、修一と暁也はしばらく口を開かなかった。そんな事も気にせず先導するように手を握ったまま、雪弥は少年組とシャッター通りを通り過ぎて、大通りの南側終点にあるコンビニまで言葉なく歩いた。

 コンビニの前に置かれているベンチに二人を座らせると、店内でハンカチを購入する。それから、水道の水で濡らしてそれぞれに渡した。

「腫れちゃうといけないからね」
「…………おう」

 暁也がぶっきらぼうに答え、修一は空元気に「ありがとう」と言って少し痛みが残る頬にハンカチを当てた。暁也はしばらくシャツについた靴跡を手の甲で払い、そのあと薄らと腫れている額の左側へとハンカチをやって顔を歪める。

 見たところ、それほど強く打たれたというわけではさそうだ。二人はスポーツが出来る人間なので、もしかしたら反射的に上手く身体をそらしたのかもしれない。切り傷もひどい鬱血も見られず、腫れているのも今だけだろうと分かった。

「で、なんで君たちはここにいるのかな?」
「なんでって、カラオケだよ」

 一息ついてから尋ねた雪弥に、そう間髪入れず答えたのは修一だった。

 現在の時刻は、午後十時半近くだ。それを伝えるように、雪弥は呆れた眼差しを浮かべて腕を組み、ベンチに座る二人を見下ろした。

「あのね、もう少し早く帰れなかったのかな。もうほとんどの店が閉まってる時間帯なんだけど」

 雪弥が言うと、二人の少年が同時に顔を顰めた。「お前、おっさんみたいなこと言うなよ」と修一が述べてきて、思わず返す言葉を失って黙りこむ。

 君たちからしてみると、僕はおっさんだよね……