高知県警察本部刑事部捜査一課で、内田のもとに金島から電話連絡が入った頃。

 午後十時十二分、パチンコ店の屋上には二つの影があった。

 一人はすらっとした体格をした男で、顔には狐の面をかぶっていた。彼は直立不動しナンバー1に続く、直属の上司にしてはずいぶんと若い青年、ナンバー4を見つめている。

 ナンバー4である雪弥は、アンテナ上部を戻した携帯電話を耳に当てていた。力なく三日月を見上げる瞳は、殺気も感じないほど静まり返っている。

「ええ、殺しませんでしたよ」

 上司であるナンバー1に、雪弥は静かな口調で続けた。

 今、手頃な高さに腰かけている彼は、ゆっくりと視線を正面へ戻した。そこには、月明かりに振動する巨大な肉片がある。


「その代わり、邪魔だったので全ての四肢を切り落としましたが」


 告げる声は柔らかい。だが、その言葉は戦慄を覚えるほどに冷酷な内容だった。

 青年が腰かけているのは、胴体と首だけが残った巨体生物の上だった。既に人だった頃の形相をなくしてしまっているその口には、狐面の男によって猿ぐつわがされていた。辺りには切られた手足が四方に散らばり、血を吹き出すことなく振動を続けている。

「薬が利いている効果なんですかね? 切り口が一瞬で塞がって、びっくりしました。まぁ、おかげで返り血も浴びなかったし、出血死の恐れもなくなったんですけど」
『……適切な判断だったと思う。カメラで現場の様子はずっと見ていたが、あのままでは確実に、優秀な第四部隊の隊長を失っていただろう。だが、その里久とかいう青年の命も長くはない可能性がある。これまで東京で上がった筋組織が発達した薬物検挙者は、みな姿戻ることなく死んだからな』

 つい先程ゲームセンターで普通に言葉を交わした青年だったと聞いて、少し気遣うような声色で、ナンバー1は告げる。

「なるほど、こういう姿を見るのは、あなたは初めてではないんですね。――とはいえ、ここまで変容している状態で、尚且つ生きたまま確保出来たのも初めてで、今進めてる薬の件と併せて早急に調べるわけですね?」
『その通りだ。場合によっては、白鴎学園内の薬物使用者に関しての処置が変わる。先程手に入った情報では、赤い薬はレッドドリームと呼ばれ、麻薬でも覚せい剤でもない代物らしい』

 それを聞いて、雪弥は「ああ、だからか」と凪いだような心で思った。

 先程、まだ人の姿をしていた里久が赤い夢といっていたのは、レットドリームだと分かって、それをぼんやりと思い起こす。

『今回手に入れた二つの薬の現物についても、すぐ調べに当たらせる。どのような反応を引き起こすものかが分かれば、事の真相把握にも繋がるだろう。もしかしたら、青い方を継続して使用する事で、体内に何かしらの変化が起こり、そこに赤い方が加わってようやく反応が起きる――という線が強そうだけどな』

 実際の使用者たちを調べている中で、色々と判明し始めていることもあるようだ。必要になれば話をされるのだろうと察して、雪弥は一人頷く。