顔を赤らめた毅梨が、「お前だけ何故いつも金島本部長と電話を」と羨ましさとじっとしていられない感情のまま、地を這うような声をこぼして西田の席に大股で歩み寄る。

 金島に惚れ込んだ刑事の一人である毅梨を、机に食べ物を放り出した三人の捜査員たちが全力で止めに入った。

「ちょッ、待って下さい毅梨さん!」
「今やつの作業を中断するのはまずいっすよ!」
「内田さんは、本部長と仕事の話をしているみたいですし――」
「煩い! 仕事の話なら私が一番にだな――」

 残った捜査員たちが、突進する勢いの毅梨を必死に止めているのを脇目に、内田は検索していたページを目で追ってこう言った。

「公にはされていないすけど、身体の組織が急激に発達したことによって死んでる人間、皆最後はレッドドリームに手を出していたみたいなんすよ。一部じゃあ、ブルードリームもしくはレッドドリームに手を出したら終わりだ、って声もありますけど、そこは信憑性も微妙っすね。情報は怖いくらいないです」
『……お前、今どこのデータベースを見てる?』
「そりゃあ、東京の機密ファイルにハッキングしてるに決まってるでしょ」

 内田が丸い菓子を口に放りこみ、もごもごと動かした。

 その瞬間、毅梨と残っていたベテラン捜査員たちが、怒りの形相で「内田ぁ!」と叫ぶ声は、電話越しに金島まで届いていた。

『…………まぁ、あまり無茶をしないようにな。バレた時に尻拭いをしているのは毅梨たちだろう』
「そっすね、先輩たちには感謝し尽くせませんよ、あ~まじ有り難ぇ」

 興味もなさそうな棒読みの後、内田は椅子に座り直して眉を顰めた。

「人間を改造する薬だっていう噂もありますけど……金島さん、もしかして何か大きなヤマ抱えてるんじゃないすか? なんか、いつもと違いますよ。あなたのそばには俺たちがいますし、俺ら、いつでも全面協力体制で待ち構えてるんすけど?」

 内田は、興味本位で調べていた麻薬事件に、高知県というキーワードを見ていた。その矢先に金島からの連絡が来たため、彼が東京の連中の捜査に乗り出しているのでは、という一つの可能性を勘ぐってはいたのだ。

 毅梨と他の捜査員たちが顔色を変えて、真面目な顔付きで内田の元へと歩み寄った。電話越しに金島の声を聞くべく、室内が緊張したように静まり返る。


 しばらく、電話の向こうから返事はなかった。

 鬼刑事と呼ばれた金島が、このように沈黙するというのも滅多にない事だ。そんな時は大抵、大きな事が絡んでいる時であることを一同は知って、ただ一心に返事を待って口をつぐんでいた。


 しかし、数分待っても、金島は口を開かなかった。毅梨たちの視線を横顔に受け止めたまま、内田は真剣な声で「金島本部長」と本来呼ぶべき方の名を口にした。

「俺に出来ることはありますか? いや、『俺ら』に出来ることなら、なんでも言ってください。今日こそは、奥さんが寝る前に手料理を食べるって言ってたのに、こんな遅くまで署内に残っているなんて、やっぱり何かあるんでしょう? 昨日の夕方からずっと、執務室に閉じこもっているじゃないすか」