ナンバー1直属部隊である暗殺機動隊は、ナンバーを持ち合わせてはいないが、一から十八ある部隊隊長が、自身の隊の部下を従えて常に同じ番号を持った上位ナンバーに同行している。ナンバー4である雪弥にも、暗殺起動隊第四番部隊が付いていた。

「もうちょっと早めに来い、つか加勢しろよ!」

 雪弥は、かれこれ七年の付き合いになる「狐野郎」に言い掛けて、ぐっと歯を噛み合わせた。

 両腕を折られてうつ伏せにされていた里久が、痛みを感じないようにその巨体を激しく動かした。巨体が弾くように立ち上がった拍子に投げ出され、雪弥は空中で舌打ちし、一度屋上に着地してから素早く体勢を整えた。

 再び外を目指して重々しく飛び上がった里久の巨体を追い掛けるべく、自身も屋上コンクリートを抉るほどの力で跳躍する。

 下へ降りようとしていた里久の太い首を掴みかかると、華奢な身体からは想像できないほどの怪力で、雪弥は彼を再び屋上へと叩きつけた。屋上に全身を打った巨体に対し、空中で素早く隠しナイフを取り出して狙いを定める。

 直後、時速二百キロで放たれたナイフが、目にも止まらぬ速さで巨体の四肢を貫いた。雪弥は里久であったとは思えない浅黒い肌をした怪物の上半身の上に着地すると、怒号を上げかけたその大きな口を瞬時に塞ぐように、騒ぎが地上に聞こえないよう腕で締め上げた。

 こうなったら、殺すしかない。

 雪弥はすぐ行動に移そうとしたが、狐のお面をつけた男が隣の建物から飛び移り、こちらに小型無線を差し向けてきた。

『雪弥、そいつは殺すな。調べたいことがある』
「だそうです」

 ナンバー1の声を聞いて雪弥が動きを止めたのを見て、狐面の男がどこかほっとしたようにそう言ったとき、――里久の足が鞭のように伸びて、目にも止まらぬ速さで雪弥の頭上へ踊り上がった。

 走行車に轢かれたくらいでは重症にならない強靭な身体をした雪弥は、ギョッとして「骨格を無視して伸縮する仕組みなの!?」と場違いな感想を口にした。

 これは久々に苦戦になるかもしれないなと、殺さないやり方での防御と拘束の方法を考え、「チクショー無茶言うなよなナンバー1!」と罵声を上げる。


「ナンバー4!」


 狐面の男が、珍しく驚愕を露わに叫んだ。彼らは各数字を持った上位エージェントに専属として仕える他、替えのきかない貴重人材である彼らを、その命を掛けて守る事が最大の役目とされていた。

 暗殺部隊の狐面男が鋭く叫んだ瞬間、幹のように太い里久の右腕が同時に動き出し、雪弥を守り加勢するべく動き出そうとした彼に、コンマ一秒で迫った。

 その光景を眼にした瞬間、そちらを振り返った雪弥の瞳が見開かれた。

 瞬間的に、その表情から人間らしい感情が抜け落ちたかと思うと、雪弥の眼差しが絶対零度の殺意を宿した。その黒く色が変えられた瞳がブルーを灯し、夜空の下の闇で煌々と光った。