『……まぁ、大学の学長が協力者だということは予想範囲内だったがな』
「でしょうね」
『しかし、気になるのは話の中であった『取引』だな。青と赤の覚せい剤に関しては、うちでブルードリームとレッドドリームの名が上がっている』
「またややこしい感じの名前が出てきましたね」
『ややこしいどころじゃないかもしれんぞ。今早急に調査をすすめているが、いろいろと厄介そうだ』
雪弥は、腕時計へと視線を落とした。時刻は午後十時を過ぎている。
「長居はできないので、一旦ここで切りますね」
『うむ、引き続き調査を頼む。こちらも、情報がまとまり次第連絡する。あと、飼うんだったらその人形の名も考えておけ』
「了解」
雪弥は電話を切り、ズボンのポケットにしまった。パーカーの腹ポケットに入れられたままの左手は、頭が大きい間抜け面の人形に触れたままである。
白鴎高校に勤務する大学学長の富川と、高等部にいる「明美」という女。高校生の常盤と理香に、組織の一人らしい男「シマ」。
ナンバー1に報告した際、雪弥は、建築事務所として借りられている建物にシマという男が所属している小さな組織がある事を聞いた。今年茉莉海市に入ってきた「シマ」らは、千葉で詐欺の疑いを掛けられた「藤村事務所」のメンバーであった。
大手企業子会社が持っている建築業の名で登録され、表向きは新城(あらしろ)忠志(ただし)という男が率いる建築事務所となっているが、本物の新城忠志が、茉莉海市に入った形跡は一つもない。
「ん~…………、名前かぁ」
動物にしろ人形にしろ、飼うからには名をつけろとナンバー1は述べたが、雪弥はこれまでペットを飼った経験がなかったので、つける名が全く思い浮かばなかった。とりあえずはと思い、ポケットから人形を取り出して、しっくりとくる名を考えてみる。
携帯電話ほどのサイズをした人形は、小さな手足とふっくらとした頭をしていて、小さく膨れた腹まで、持て余すところなく白い生地ぎっしりに綿が詰められていた。のんきな丸い目と笑みを作る三角の口だけで、耳も尻尾も鼻の凹凸もないストラップ人形である。
雪弥はしばらくそれを眺め、意味もなく左右にゆっくりと揺らせた。「のんきな顔だよなぁ」と感想を呟いたところで、ふと名前を思いついた。
「そうだ、白豆にしよう」
雪弥は、白豆と呼ぶことにした人形をパーカーの腹ポケットにしまった。路地を南へと向けて歩き出したとき、ズボンの左ポケットに入れていた携帯電話が震え出す。
画面を確認すると、ナンバー1からだった。雪弥は、目新しい情報でもあったのだろうか、と訝しみながら電話を取った。
「はい、もしもし」
『私だが』
低い声色が笑むように震え、雪弥は怪訝そうに眉を潜めた。
ぶっきらぼうに「なんですか」と問いかけてみると、ナンバー1がしばらく喉の奥で笑いを堪えるような間を置いて言った。
「でしょうね」
『しかし、気になるのは話の中であった『取引』だな。青と赤の覚せい剤に関しては、うちでブルードリームとレッドドリームの名が上がっている』
「またややこしい感じの名前が出てきましたね」
『ややこしいどころじゃないかもしれんぞ。今早急に調査をすすめているが、いろいろと厄介そうだ』
雪弥は、腕時計へと視線を落とした。時刻は午後十時を過ぎている。
「長居はできないので、一旦ここで切りますね」
『うむ、引き続き調査を頼む。こちらも、情報がまとまり次第連絡する。あと、飼うんだったらその人形の名も考えておけ』
「了解」
雪弥は電話を切り、ズボンのポケットにしまった。パーカーの腹ポケットに入れられたままの左手は、頭が大きい間抜け面の人形に触れたままである。
白鴎高校に勤務する大学学長の富川と、高等部にいる「明美」という女。高校生の常盤と理香に、組織の一人らしい男「シマ」。
ナンバー1に報告した際、雪弥は、建築事務所として借りられている建物にシマという男が所属している小さな組織がある事を聞いた。今年茉莉海市に入ってきた「シマ」らは、千葉で詐欺の疑いを掛けられた「藤村事務所」のメンバーであった。
大手企業子会社が持っている建築業の名で登録され、表向きは新城(あらしろ)忠志(ただし)という男が率いる建築事務所となっているが、本物の新城忠志が、茉莉海市に入った形跡は一つもない。
「ん~…………、名前かぁ」
動物にしろ人形にしろ、飼うからには名をつけろとナンバー1は述べたが、雪弥はこれまでペットを飼った経験がなかったので、つける名が全く思い浮かばなかった。とりあえずはと思い、ポケットから人形を取り出して、しっくりとくる名を考えてみる。
携帯電話ほどのサイズをした人形は、小さな手足とふっくらとした頭をしていて、小さく膨れた腹まで、持て余すところなく白い生地ぎっしりに綿が詰められていた。のんきな丸い目と笑みを作る三角の口だけで、耳も尻尾も鼻の凹凸もないストラップ人形である。
雪弥はしばらくそれを眺め、意味もなく左右にゆっくりと揺らせた。「のんきな顔だよなぁ」と感想を呟いたところで、ふと名前を思いついた。
「そうだ、白豆にしよう」
雪弥は、白豆と呼ぶことにした人形をパーカーの腹ポケットにしまった。路地を南へと向けて歩き出したとき、ズボンの左ポケットに入れていた携帯電話が震え出す。
画面を確認すると、ナンバー1からだった。雪弥は、目新しい情報でもあったのだろうか、と訝しみながら電話を取った。
「はい、もしもし」
『私だが』
低い声色が笑むように震え、雪弥は怪訝そうに眉を潜めた。
ぶっきらぼうに「なんですか」と問いかけてみると、ナンバー1がしばらく喉の奥で笑いを堪えるような間を置いて言った。