オレンジの短髪頭の大きな青年が言い、雪弥は顔を見られないよう視線をそらしながら「まぁね」と答えた。青年のタンクトップの下からは、鍛えられた筋肉が浮かび上がっている。
年頃は二十歳前後だ。もしかしたら大学生か、近くの専門学生である可能性もある。彼は何かしら運動でもやっているのだろうか、と一人推測する雪弥に、その青年の方が続けてこう言った。
「コツはさ、引っかけるか落とすか、だぜ」
「引っかけるほうが確実だけどね」
彼が言ってすぐ、眼鏡を掛けた青年が口を挟み、ほどなくして肩をすくめた。
背丈は雪弥と同じくらいで、細い黒縁眼鏡の奥にある細い瞳は穏やかで冷静であり、天然パーマの髪も手が加えられた様子はない。隣の陽気な筋肉青年に比べると、眉さえいじられてはいない真面目そうな風貌だった。
すると、大柄で活気に満ちた瞳をした方の青年が、こう言った。
「お前、大学生? 俺、白鴎学園の大学の三年、鴨津原健。で、こいつは交流のない学生とも成績トップを争ってる里久」
「別に、意識して争っているわけじゃないって。変なこと言うなよ」
眼鏡の青年、里久が軽く鴨津原を睨みつけたあと、こちらへと視線を戻して人懐っこい笑みを見せた。
「突然ごめん、なんだか見ていられなくなったというか…………」
「いやぁ、こんなに下手くそな奴は里久以来だぜ」
「煩いよ」
私服だとさすがに高校生設定は厳しいもんな……
雪弥は、引き攣りかけた口元にどうにか笑みを作っていた。相手が調査対象の大学生という事もあり、どうしたものかと思いながら、ひとまずは話を合わせるべく「雪弥です」とぎこちなく答える。
「隣町の専門学校が休みだったから、友だちとカラオケに入っていたんだ。その、うっぷん晴らし? えぇと、そう、たまには勉強の息抜きでもって思って……その後別れたんだけど、ちょっとゲーセン寄ってみようかなと…………」
若い子って、よくゲーセンっていうよね?
そう悩む雪弥に気付かず、運動派にしか見えない大柄でたくましい鴨津原が、大きな声で笑った。
「確かに、うっぷん晴らしにはもってこいだな! 俺もよく行くぜ。こいつなんて、大学生なるまでゲームもカラオケも経験がなかったから、初めて知った時はびっくりしたんだぜ」
「へぇ、珍しいね」
雪弥は話しながら、ちらりと理香と男へ目をやった。二人はレースゲームを始めており、しばらく動く様子は見られない。
大学生に話を聞ける絶好のチャンスだと思うと、今の状況は都合がいいのかもしれない。そう冷静に考えながら戻した視線の先で、眼鏡の里久が肩身を狭めながら「うちの親は厳しいから」と口ごもったとき、雪弥は遠慮がちに尋ねてみた。
「白鴎学園って、確か附属の高校があったよね?」
「いんや、外から来る奴らもいるぜ。俺は高校からだけど、里久は高知市からこっちに移って来て一人暮らしだ。俺の親がそこの居酒屋やってて、結構余りもん出るからおすそわけしてんの」
鴨津原は「お前今からでも編入しね? なんか気に入ったわ」と続けたが、雪弥は困った笑みで応えて首を横に振った。里久がすかさず彼に「ちょっと黙ってろ」と一喝し、クレーンゲームの基本的な操作方法を説明し始める。
年頃は二十歳前後だ。もしかしたら大学生か、近くの専門学生である可能性もある。彼は何かしら運動でもやっているのだろうか、と一人推測する雪弥に、その青年の方が続けてこう言った。
「コツはさ、引っかけるか落とすか、だぜ」
「引っかけるほうが確実だけどね」
彼が言ってすぐ、眼鏡を掛けた青年が口を挟み、ほどなくして肩をすくめた。
背丈は雪弥と同じくらいで、細い黒縁眼鏡の奥にある細い瞳は穏やかで冷静であり、天然パーマの髪も手が加えられた様子はない。隣の陽気な筋肉青年に比べると、眉さえいじられてはいない真面目そうな風貌だった。
すると、大柄で活気に満ちた瞳をした方の青年が、こう言った。
「お前、大学生? 俺、白鴎学園の大学の三年、鴨津原健。で、こいつは交流のない学生とも成績トップを争ってる里久」
「別に、意識して争っているわけじゃないって。変なこと言うなよ」
眼鏡の青年、里久が軽く鴨津原を睨みつけたあと、こちらへと視線を戻して人懐っこい笑みを見せた。
「突然ごめん、なんだか見ていられなくなったというか…………」
「いやぁ、こんなに下手くそな奴は里久以来だぜ」
「煩いよ」
私服だとさすがに高校生設定は厳しいもんな……
雪弥は、引き攣りかけた口元にどうにか笑みを作っていた。相手が調査対象の大学生という事もあり、どうしたものかと思いながら、ひとまずは話を合わせるべく「雪弥です」とぎこちなく答える。
「隣町の専門学校が休みだったから、友だちとカラオケに入っていたんだ。その、うっぷん晴らし? えぇと、そう、たまには勉強の息抜きでもって思って……その後別れたんだけど、ちょっとゲーセン寄ってみようかなと…………」
若い子って、よくゲーセンっていうよね?
そう悩む雪弥に気付かず、運動派にしか見えない大柄でたくましい鴨津原が、大きな声で笑った。
「確かに、うっぷん晴らしにはもってこいだな! 俺もよく行くぜ。こいつなんて、大学生なるまでゲームもカラオケも経験がなかったから、初めて知った時はびっくりしたんだぜ」
「へぇ、珍しいね」
雪弥は話しながら、ちらりと理香と男へ目をやった。二人はレースゲームを始めており、しばらく動く様子は見られない。
大学生に話を聞ける絶好のチャンスだと思うと、今の状況は都合がいいのかもしれない。そう冷静に考えながら戻した視線の先で、眼鏡の里久が肩身を狭めながら「うちの親は厳しいから」と口ごもったとき、雪弥は遠慮がちに尋ねてみた。
「白鴎学園って、確か附属の高校があったよね?」
「いんや、外から来る奴らもいるぜ。俺は高校からだけど、里久は高知市からこっちに移って来て一人暮らしだ。俺の親がそこの居酒屋やってて、結構余りもん出るからおすそわけしてんの」
鴨津原は「お前今からでも編入しね? なんか気に入ったわ」と続けたが、雪弥は困った笑みで応えて首を横に振った。里久がすかさず彼に「ちょっと黙ってろ」と一喝し、クレーンゲームの基本的な操作方法を説明し始める。