シャッターが多い店を越えると、大通りの交差点に茉莉海ショッピングセンターが腰を下ろしていた。東側に小さな雑貨店や若者向けの衣類ショップがあるが、どちらも夜十時の閉店準備が始まっていた。

 客足が落ちついた焼き肉屋やファミリーレストランを挟み、北側に向けて小さな居酒屋が並ぶばかりだ。そこには、陽気に顔を赤らめた中年の男性が数人、隣の小さなスナックに連れ添って入っていく光景も見られた。

 雪弥はショッピングセンターを通り過ぎると、カラオケ店とパチンコ店に面するゲームセンターへと向かった。十八、九歳から二十代の若者が店の前で談笑しており、中からは騒がしいゲーム音が漏れる。

 ゲーム店の開け放たれたガラス扉には、「深夜二時まで営業」と印字された紙と従業員募集広告が張り付けられていた。雪弥がまずそこに目をつけたのは、「一番若者が集まりやすい場所だよな」と楽観的に考えてのことで、ほとんど勘によるものだった。

 ゲームセンターにはたくさんのゲーム機が置かれており、店内には少年や青年たちの姿が目立った。リズムゲーム、レースゲーム、格闘ゲームに若者一同が熱を上げ、小さなプリクラ機器が三台並んだ場所からは少女や女性の足が覗く。

 様々な商品内容に別れたクレーンゲームは、男女問わず挑戦している様子が見られた。もっぱら注目を浴びていたのは、通信機能のついた対戦ゲームである。暇を持て余した観客が、それを遠目で眺めたり真近で応援するなど、奇妙な一体感が生まれていた。

 大半の客が数人連れで店を訪れ、ゲーム機の前に集まって楽しんでいる光景が目立った。個人で来ている若者は見られず、時々やかましそうな顔をした大人たちが通り過ぎながら、ゲームセンターの入口を覗きこんでいくばかりだ。

 雪弥は「帰ろうか」と話しながら擦れ違った少女たちや、お目当てのゲーム機へと移動する若者を避けながら店内を進んだ。

 鼓膜を叩くような音が溢れ返り、通常なら話し声を聞くことも難しい空間だったが、雪弥の聴覚では特に問題にはならなかった。クレーンゲームで人形ばかりとっていた中年男性に、三人の少年が「おっさんすげぇ」と感心する声も、それに対して男性がろれつも回らずに「そろそろ帰んな、もう十時前だぞ」といった言葉もきちんと聞こえていた。


「理香ぁ、こっちに来いよ」


 溢れる音の中から、ふと聞き覚えのある名を耳にして雪弥は立ち止まった。

 帽子を深くかぶり直して辺りを見回した。もう一度「理香ぁ」とだらしない口調が聞こえて、彼は音の位置を特定した。

 店内の奥にあるレースゲームに腰かけ、誰かを呼ぶように振り返る一人の男がいた。第三ボタンまで開けた赤いシャツに、派手な光沢の入った紫のスーツを着ている。彼は「スピードX」というレースゲームの肘置きに手を掛け、誰かを手招きしている様子だった。