スポーツ試合が再開すると、いつもは謙遜されている暁也もすっかりクラスに溶け込む。
四組は修一と暁也が中心で動き、三組は西田と佐野が走り回った。特に声を上げていたのは、三組の西田と円藤で、四組はどこか遊び楽しんでいるような笑顔と会話が飛び交っていた。
「委員長、パス!」
「だから暁也君、何度も言ってるけど、俺は委員長じゃなくて佐久間(さくま)だよ!」
「つか委員長! 暁也じゃなくて俺にプリーズ!」
「君もか、君もなのか修一君!?」
「こら委員長! 大人しく俺にボールを渡せ! この西田(にしだ)俊成(としなり)、恩は必ず返す男だ!」
「君は三組でしょうが! しかもッ、僕が委員長だったのは二年であって、今は委員長じゃないんだってば!」
四組の黄色いゼッケンを着た眼鏡の男子生徒、佐久間(さくま)誠(まこと)は、双方のクラスから委員長と連呼されて突っ込みが絶えない。
生徒たちがグラウンドの中盤で騒ぎたてるのを、雪弥は欠伸一つ構えて眺めていた。体育教師から注意を受けた彼は、現在、ゴールコートから三メートルの距離にずれただけの場所にいた。それ以上進む様子も見られないので、四組の生徒たちは、雪弥にゴールコートの守りを任せて敵コートへと乗り出している。
「うん、なんかファインプレーって感じだね」
「…………本田君」
声を掛ける森重の表情は、やはり複雑だ。雪弥は先程から、こちらに生徒が駆けて来ると、さりげなく動いている振りをして端に寄っているのだ。
四組のゴールキーパー森重は優秀だった。大きな身体からは想像も出来ないほど、俊敏な動きでボールを受け止める。彼が三組のゴールキーパーのような警戒の声を上げたら加勢しよう、と雪弥は考えていたのだが、森重は悠々とした様子でシュートする男子生徒の正面に構えてくれる。
「……お前、ゴールコート守る気あんの?」
前半戦が終わったとき、汗だくの暁也が涼しげな雪弥に尋ねた。雪弥は「勿論だよ」と答えて頷く。
「でもほら、森重君がばんばん防いでいくから」
「アホか。あいつにも苦手なシュート打つ奴がいるんだよ」
暁也が告げると同時に、試合がスタートする合図が上がった。その際、遠くにいた西田が、自信たっぷりの笑顔でこちらを振り返ってきて「この俺とかな!」と主張した。
その声を聞いた雪弥は、この距離でよく聞こえたな、と感心してしまう。
こちらの会話をちゃっかり拾っていたらしい彼に対して、暁也はわざとらしく耳をかいて「雑音がするな」と言って踵を返した。グラウンドの中盤でショックを受ける西田を慰めたのは、野球部一闘争心がない佐野であった。
「ま、どんまい?」
「…………ひどすぎるよ」
あいつは二年のときからそうだった、とぼやく西田の台詞は弱々しい。対する佐野は、視線を泳がしながら「元クラスメイトでも容赦ないしなぁ」と独り言を呟いた。
四組は修一と暁也が中心で動き、三組は西田と佐野が走り回った。特に声を上げていたのは、三組の西田と円藤で、四組はどこか遊び楽しんでいるような笑顔と会話が飛び交っていた。
「委員長、パス!」
「だから暁也君、何度も言ってるけど、俺は委員長じゃなくて佐久間(さくま)だよ!」
「つか委員長! 暁也じゃなくて俺にプリーズ!」
「君もか、君もなのか修一君!?」
「こら委員長! 大人しく俺にボールを渡せ! この西田(にしだ)俊成(としなり)、恩は必ず返す男だ!」
「君は三組でしょうが! しかもッ、僕が委員長だったのは二年であって、今は委員長じゃないんだってば!」
四組の黄色いゼッケンを着た眼鏡の男子生徒、佐久間(さくま)誠(まこと)は、双方のクラスから委員長と連呼されて突っ込みが絶えない。
生徒たちがグラウンドの中盤で騒ぎたてるのを、雪弥は欠伸一つ構えて眺めていた。体育教師から注意を受けた彼は、現在、ゴールコートから三メートルの距離にずれただけの場所にいた。それ以上進む様子も見られないので、四組の生徒たちは、雪弥にゴールコートの守りを任せて敵コートへと乗り出している。
「うん、なんかファインプレーって感じだね」
「…………本田君」
声を掛ける森重の表情は、やはり複雑だ。雪弥は先程から、こちらに生徒が駆けて来ると、さりげなく動いている振りをして端に寄っているのだ。
四組のゴールキーパー森重は優秀だった。大きな身体からは想像も出来ないほど、俊敏な動きでボールを受け止める。彼が三組のゴールキーパーのような警戒の声を上げたら加勢しよう、と雪弥は考えていたのだが、森重は悠々とした様子でシュートする男子生徒の正面に構えてくれる。
「……お前、ゴールコート守る気あんの?」
前半戦が終わったとき、汗だくの暁也が涼しげな雪弥に尋ねた。雪弥は「勿論だよ」と答えて頷く。
「でもほら、森重君がばんばん防いでいくから」
「アホか。あいつにも苦手なシュート打つ奴がいるんだよ」
暁也が告げると同時に、試合がスタートする合図が上がった。その際、遠くにいた西田が、自信たっぷりの笑顔でこちらを振り返ってきて「この俺とかな!」と主張した。
その声を聞いた雪弥は、この距離でよく聞こえたな、と感心してしまう。
こちらの会話をちゃっかり拾っていたらしい彼に対して、暁也はわざとらしく耳をかいて「雑音がするな」と言って踵を返した。グラウンドの中盤でショックを受ける西田を慰めたのは、野球部一闘争心がない佐野であった。
「ま、どんまい?」
「…………ひどすぎるよ」
あいつは二年のときからそうだった、とぼやく西田の台詞は弱々しい。対する佐野は、視線を泳がしながら「元クラスメイトでも容赦ないしなぁ」と独り言を呟いた。